「 このSEX野郎! 」

 幅4mのうちの前の道路には、同じ年頃の子供が大勢住んでいる。
 我が家は男児4人。となりは男の子ひとりと女の子ひとり。
 その隣りは男児3兄弟。そのとなりは女の子。
そのまた隣りのアパートの1階には、うちと同じ4人兄弟。

 夏休み、朝8時半頃から
「あーそーぼー」
という恐怖のひと声が外から聞こえ、ドアを開けると、
十数人のギャングたちがズラリ並んでいる。

 まだ寝巻きでブラもしていないのに、
「おっじゃまっしま〜〜〜すっ!」
と、あっという間に狭い居間を乗っ取られてしまう。

「おばちゃん、家で仕事してるから外で遊んで」
と、両手両足を全部駆使して全員を外へ追い出すが、
中にはすばしっこいのがいて、
気がついたら勝手にテレビゲームを始めていたり、
暗い部屋の隅でうずまってゲームボーイをやっている。

「おいっ!」
 私は、人の子なのにも関わらず、
「さあ、出た出た! 子供は外で遊びな! 公園行け!」
と、蹴散らして外に追いやり、朝から疲れまくっている。

 出たと思えば、もう取っ組み合いが始まっている。
 最初は知らん顔をしていたが、
だんだんエスカレートしていくので飛び出していき、
「やりすぎっ!」
と、ふたりを引き剥がす。
 家に入り、あーあ、と言っていると、また、ギャンギャンとがなりあう声がしている。
 放っておこうと思っていたが、次第に
「てめえなんて死ね」
「なんだ、このデブ」
「一生嫌われ者だ!」
「テメエなんて生きてるカチねえ」
などと、どんどん嫌なセリフが出てくるので、また私は外に飛び出し、
「人を傷つけることを言うんじゃないよっ!」
と、怒鳴りつけている。

 もうイヤん!
 うるさい、うるさい、うるさいんだってばよ〜っ!!

 ある日、メンバーの中でもワルガキ兄弟ふたりがうちに上がってゲームを始めた。
 うちの三男が異常にそのゲームが上手かったのが悔しかったらしく、
5年生の子が突然、うちの三男に向かって、

「何だよ、このSEX野郎!」
と、大声で叫んだ。

「はっ?」
 
 恐らく言ったその子は、「SEX」ということばを、「バカ」とか「カス」とか同様、
人をけなすことばだと思っているのだろう。
 あるいは、意味を知っていて、
それが何か忌まわしいものだというイメージを持って
クラスメイトたちと囁きあっているのだろう。

 私がその子をじっと見ていると、ハッとしたその子は、
「いや、あの、いえ・・・・・・」
と口篭もっていたから、うっすらとその意味はわかっているのだろう。

 すると、幼稚園児の三男は、その5年生に向かって
「なんだ、このソックス野郎!」
と言い、長男は、
「なんだ、このシックス野郎!」
と言い、みんなで笑っていた。

 あほくさっ!

 私の夏を返せっ! このSEX野郎ドモめっ!!!

(しその草いきれ) 2002.09.01 作 あかじそ