JUNさん 22800キリ番特典 お題「嵐」

しその草いきれ 「うすら不自由」

 私はもともとぼんやり屋で、
人と争ったり競ったりすることに、まるで興味がない。 
 ぼんやりしているから、
人に利用されたり騙されたりしていることすら気付かない。
 ところが、高校時代あたりから、
「あれっ?」
と、思い始め、そういえば、あの時もこの時も、
私は何だか損ばかりしているぞ、
と、どんどんマイナス思考に走っていった。
 
 ああ、私はなんて可哀想な人間なんだろう!
 なんて可哀想な人生を歩んでいるのだろう!

 生まれてこの方、ひどいアレルギーで、
鼻から息をした覚えのない、口呼吸人生。
 いつも息苦しく、粘膜は痒く、脳は酸欠で、
ぼんやりしている。

 運動会では、いつもブービー。
 ビリじゃないところがまた、中途半端で切ない。
 勉強は、科目によってひどくムラがある。
 脳が酸欠で記憶力ゼロだから、
暗記ものはまるでダメ。
 高校生でぎっくり腰になり、
4度の妊娠ですっかり尿失禁常習者。
 冬は腰と尿が心配で、思いきりくしゃみもできない、
うすら不自由な暮らし。

 ああ、年寄り臭い。

 ところが、ある日の朝刊の投書欄を読んで、
私は、このうすら不自由なぼんやり生活を、
まんざらではないと思うようになった。

 その投書の内容はこうだ。


「私は、子供の頃から運動はできたし、
勉強も人並み以上。
 学校ではいつも首席だった。
 一流企業に入社して、
仕事もできて部下にも信頼が厚く、
退職後は子会社に出向、
経験を生かして小さな会社を一部上場に育て上げ、
惜しまれながら引退したが、
今では歳のせいか、体が思うように動かず、
周りを取り巻いていた者たちもみんな離れて行った。
 【万能だった自分も落ちたものだ】
と、嘆くばかりの寝たきり生活。
 一日中、体を静かに横たえながら、
心の中では嵐が吹き荒れている毎日だ」


 この人も大変だなあ、と思ったのだ。
 生まれてからずっと「俺は万能だ」と思って生きてきた人が、
歳をとるにつれ、日々無力感を重ねていくのだから。

 私などは、ことばも話せないうちから
「あー、アタシャ〜、みんなができるこんな簡単なこともできないのか〜」
と感じながら生きてきた。
 体が思うように動いたことなんてないし、
ましてや他人を思うように動かすなんてことは難しい。
 そんなことは、チビの頃から体で知っている。
 この世界が私中心に回っちゃいないことも
悲しいほど知ってるのだ。

 いつもいつも、
うすら悲しく、うすら淋しく、うすら切なく、うすら不自由だ。
 でも、そんな中でも、何とか
隙間隙間に嬉しいこと楽しいことを見つけては、
なんとかかんとか笑って生きてる。

 だから、歳をとって、
いろいろなことが思うようにならなくなっても、
「あらあら・・・・・・」
とは思うかもしれないけれど、
この投書の人みたいに絶望的になることはないだろう。
 
 この人の人生が【晴れのち嵐】だというのなら、
私の人生は【築40年の木造家屋】といったところか。
 いつもすきま風がひゅうひゅうしているが、
雨風は何とかしのげる。
 「ああ、すきま風が寒い切ない」
と震える夜も、
 「てえい、すき間にガムテープでも貼っとけい」
と、へっぴり腰でメバリをしている簡単な人生である。

 うすら不自由だけど、うすら幸せな人生だったりする。


               (了)

         (しその草いきれ)2003.3.3. あかじそ作