しその草いきれ 「昭和のおばちゃん」




金がねえぞ〜!

 ということで、化粧品が買えなくて困っていた。
 寒くなって肌もピキピキ乾燥し始めたから、
乳液が切れているのはつらかった。
 化粧水を多めに付けてもピキピキには対抗できず、
仕方なく、食費を削って安い乳液を買うことにした。

 ドラッグストアの化粧品売り場で
ひゃがみ込んで何分も悩んだ。

 ターゲットは・・・・・・
 
 1200円のヒアルロン酸入り乳液。
 800円の美容液入り乳液。
 そして、最後の砦、昔っからある「昭和なクリーム」。

 ああ、保湿力が欲しい。
 しかし、経済力が無い。

 私は、今まで避けてきた「昭和」に手を掛けた。
 箱の後ろ側を見ると、
何十種類も良からぬカタカナの添加物のてんこ盛り。
 そして、うさんくさい香料の名前。

 確かに安いけれど、
このクリームを使い果たすまでの間、
それ以上の何かヘビーなものを背負いそうだ。

 私は決断した。

 昭和へトリップしてみよう、と。

 家へ帰り、その「昭和」の箱を仰々しく取り出し、
ゆっくり開けてみた。
 丸くて白いクリームの入れ物に、
マダムっぽい紫のフタ。

 そっとフタを回し開け、満タンのそのクリームに
鼻を寄せてみた。

 クサっ!
 というか、懐かしい感じ!
 昔のおばちゃんの匂い!
 これは紛れも無く昭和ど真ん中だ!

 私は興奮し、そっとそのクリームを頬に塗ってみた。
 
 クサッ!

 昭和臭っ!

 実は、私の憧れは「昭和の暮らし」なのだった。

 子だくさん。
 清貧。
 ちゃぶ台。
 内職。

 ジャパニーズ・カントリー・ライフ!

 意識するとも無く、
それらの憧れは叶っているのだが、
今まで何かが足りなかった。

 そうだ!

 これだったのか!

 昭和のおばちゃんの匂い!
 「お化粧!」って感じの、
「香り」ではなく「匂い」!

 揃ったね!
 ビンゴです!

 今、私は、昭和をプンプンさせて暮らしている。
 油断すると、無意識に「クサッ!」と言ってしまうが。

 何せ、いつも顔にまったりくっ付いているから
常に昭和から逃げようが無い。
 クサ懐かしい。

 「クサッ!」
と顔をしかめて、次の瞬間うっとり懐古する。
 少しして、また、
 「クサッ!」
と顔をしかめて、次の瞬間またうっとり懐古する。

 ずっと、その繰り返し。

 これで私は、
名実共に「昭和のおばちゃん」か。

 やったね!(何をじゃ!)


        (了)


 (しその草いきれ)2004.11.2.あかじそ作