「 失敬な! 」

 どこにでも失敬な人はいるものだ。

 中学高校と一緒だった某Rちゃんは、
一見、物凄くいい子なのだが、
発言のそこここに
失敬ワードが散りばめられていた。

 「私が裏切っても裏切っても
ついてきてくれるから、
だから、私は、
あかじそちゃんと付き合ってあげているのよ」

 彼女は、私を喜ばせようとするとき、
いつもそう言うのだ。

 私としては、
「彼女には、迷惑をこうむりまくりだけど、
友だちだからしょうがないなあ」
と思っていたのに、
そのセリフを連日聞かされ、
更に、
「私のことばに感動した?」
と感想を問われた日にゃあ、
もう笑うしかなかった。

 失敬なヤツだ。

 「何様?」な彼女は、
今でも失敬ワードを連発しているのだろうか?
 最近は、彼女に
「付き合っていただく」のをご遠慮しているので、
近況は知らない。

 しかし最近、
結構失敬な奥さんに出会った。

 長男の同級生のお母さんなのだが、
話好きで、井戸端会議が始まると長いのだが、
その話の端々に、
「んん?」
と、ひっかる失敬ワードがきらめいている。

 「あ〜ら、あかじそ太郎ちゃん、元気〜?」
 「うん、うちの子は元気だよ。そっちは?」
 「うちも元気よ〜! 
毎日元気に塾とサッカーに通ってるわよ!」
 「わあ、文武両道だねえ。」
 「そんなことないけど〜」
 「うちは、子供が多いし、お金かかるから、
塾もサッカーも行かせられないんだよね〜」
 「そうでしょ〜う? 
だから、うちの子にいつも言うのよ〜」
 「なんて?」
 「太郎ちゃんのところは兄弟多くて
習い事に通えないのに頑張ってるんだから、
あんたは恵まれてるのよ、頑張りなさい、って」
 「お〜う・・・・・・」

 失敬です、それ。

 確かにうちは貧乏だけど、
その言いようは失敬だろう!


 下の子を連れて
学校の役員会議に出席すれば、
「いっぱいお子さんがいるのにご苦労様〜!」
と、お偉いさんに声を掛けられる。
 「いっぱいったって、4人ですから」
と笑うと、
スッと、視線を私のお腹に移す。
 確かに私の下っ腹は出ているけれど、
これは脂肪であって、「次の子」ではない。
 しかし、彼女はチラチラと
私の下っ腹を盗み見ながら、
「大変なのに、ご苦労様〜」
と重ねて言う。

 失敬な!

 確かに今までいつも妊婦だったけど、
常に妊娠を疑うのはやめてくれ!

 「避妊できない貧乏人の子宝母ちゃん」
と、決め付けないでよ!
 こちとら、結婚当初から十数年、
一日も欠かさず基礎体温をつけている
計画的な知的子だくさんだっつーの!
 フンッ!


 ニコニコしながら無意識に
失礼な発言を連発してしまう「失敬さん」は、
概して悪気が無い。
 悪気が無いから反省も無く、
したがって、いくらでも失敬を繰り返す。

 若いときは、いちいち人の言うことに
傷ついたり、目くじらを立てていたが、
いまや四十目前で、
いろいろ笑い飛ばせるようになった。

 しかし、笑い飛ばしながら、
(失敬な!)と小さく突っ込んでは、いる。


 「アンタも一緒に旅行に誘われたんだけど、
お金無いだろうから、
アンタの分は断っといたわよ」
という母。

 失敬な!
 つーか、ひどいぞ!
 一応、話通せよ!

 「おかあちゃん、おかあちゃ〜ん、
おかあちゃんって、おんな?」

 失敬だぞ! 息子!
 おんなだから、お前さんを産めたんだろうが。

 「おかあちゃんのおちんちんは、毛?」

 だから〜!
 毛は毛じゃ! ちんちんは無いんじゃ!

 「赤い服の人がいたから声掛けたら、
やっぱりあかじそさんだわ」

 赤い服一枚を着たきりじゃないぞ!
 違う種類の赤い服を何枚も持ってるんだ!
 影で「赤の人」とか言ってんじゃねえぞ!
 「ハムの人」じゃないんだから!


 言うことが当たっていたら
別に怒らないけど、
「子だくさんだから貧乏」だとか、
「ボンヤリしているから大らか」だとか、
勝手にイメージで決め付けるのは、失敬だ。

 20代の頃は、
「若い母親は、なってないわね!」
という決め付けをするオバサンに
随分失敬な忠告も受けたけれど、
幸いもう「若い母親」を卒業したようで、
意地悪な忠告を受けることは無くなった。

 その代わり、
普通に歩いているだけで、
「大変ねえ。頑張って」
と言われる。

 何でやねん!
 失敬な!

 この間も、知り合いが
4、5匹の大型犬を散歩させているのに会い、
「大変だねえ!」
と言ったら、
「そっちがでしょ!」
と言われた。
 ふと自分を見てみたら、
両手にスーパーの袋をいっぱい持ち、
子供を4人、ぞろぞろ連れていた。

 そういうことか。


         (了)


(話の駄菓子屋) 2004.12.14. あかじそ作