「 気づく 」


 「その女子が小さい声でぶつぶつ言ってるから、
よく聞いてみたら『もう死にたい』って言ってたんだ。
 だから、リュウがそれを聞いて、『じゃあ死ねば〜』って言った。
 ぼくそのそばで聞いてただけだよ」

 「友だちが人にひどいことを言っるのを、黙って聞いていたら、
自分も言っているのと同じだよ。
 だから、そう言われた子が『いくみにいじめられた』って言ってるのは、
【ヌレギヌ】じゃなかったんだよ。
 あんたもいじめていたんだよ」

 「でもちょっとからかっただけだよ」

 「いじめる方は、いつもそう。
 自分は悪いことをしたって思ってない。
 でも、自分のことばや行動が、実際、人を傷つけてるんだよ。
その事実だけは、きちんと自覚しないといけないよ」

 「あっちだっていろいろ言ってきてるのに」

 「みんなにいろいろ言われるから必死で言い返してた、って言ってたよ。
 あんたも何か言ったんだよね?」

 「え、でも、そんなひどいこと言ってないよ。
 『ばかじゃん』とか『へんなの』とかだけだよ」

 「言ってるじゃん。立派ないじめだよ」

 「でも、それくらいのことは、みんな言い合ってるよ」

 「そう。で、みんな悪い言葉や批判のことばに無神経になってたよね。
 みんな言うから、そういうことを言い合う雰囲気が出来上がってたよね」

 「そうだよ。だから、ぼくだけじゃないんだよ。悪気なんてなかったんだよ」

 「悪気があったら牢屋行きだよ。
 いじめのほとんどが悪気なんてないんだよ。
 ただ、そういう雰囲気の中で、言いたいことを言う、面白いからやる。
 それがいじめなんだよ」

 「ただのことばでしょ?」

 「ことばをなめんなよ!
 使い方によっては、素敵な魔法にもなるし、人殺しの凶器にもなるんだから。
 いくみは、小学生だから、そろそろ気づくべきだよ。
 ことばがどんなに人を元気付けたり、死ぬほど傷つけたりする力を持つか」

 「そうかなあ」

 「実際、あんたたちが無神経に振り回したことばに、
ひとりの女の子が傷ついて、
自分のお母さんに『生きててごめん』って大泣きしたんだから。
 その子がどれだけ傷ついたかわかる?」

 「・・・・・・」

 「じゃあさあ、例えば、ユリが学校入ってさ、
クラスの悪がきどもに寄ってたかってひどいこと言われてさあ、
『もう死にたい』って言いだしたらどう思う?
 あの、元気で明るい、生まれたことをみんなに喜ばれた妹がだよ、
よその子たちに『死ね』って言われて、ひとりで耐えてたらどうする?」

 「やだ」

 「やだろ? お母さんも凄くいやだし、そんなこと許せないよ。
 だから、佐山さんのお父さんとお母さんも、校長先生に怒鳴り込んだんだよ」

 「うん・・・・・・」

 「みんな自分たちのことばが、
人をそんなに追い詰めているって気づかなかったんだよね。
 根っからの悪じゃないよねえ。
 どの子もよく知ってるけど、みんないい子だもん」

 「うん・・・・・・」

 「お母さんさあ、13日に、職員室に呼び出されたよ。
 『話があるので、いくみさんと一緒に来てください』だって」

 「うそ! お母さんが怒られるの?!
 え? ごめんなさい、お母さん! ごめん! ごめん!」

 「そんな泣かなくてもいいよ。
 呼び出しなんて、ユージの時にすっかり慣れたよ。
 謝り方もそのとき散々練習できたから。
 まかせときな」

 「ごめん、お母さん・・・・・・」

 「お前が本当に反省して、
これからは、気をつけてことばを使うようにするんだったら、
お母さん、いくらでも頭下げてやるわい。
 でも、反省してないんだったら、
先生と一緒になってお前たちを叱るよ。
 物凄くおっかなくな」

 「反省してるよぅ・・・・・・」

 「じゃあ安心しな。
 これを機会に、自分のことばや行動に気をつけるんだぞ」

 「はい」



 翌日。



 「お母さん、ただいま〜」

 「おかえり。手洗いうがいして!」

 「はい。・・・・・・あの、お母さん・・・・・・」

 「なんだい」

 「今日、佐山さんにあやまってきた」

 「お! すごいじゃんか! 何て言ってあやまったの?!」

 「『いろいろ言ってごめん』って」

 「そしたら?」

 「『気にしてないから、いいよ』だって」

 「そうか! そうか! よくやった、いくみ!
 誰にも強制されないで、自分からあやまったんだな?! えらいぞ!」

 「うん・・・・・・」

 「それでこそカーチャンの子だ! よくやった! 男らしいぞ!」

 「うん・・・・・・」

 「そういう男らしい子には、こうだ!!! チュウ〜〜〜〜〜〜\(-o-)/」

 「やめてよっ!!!」

 「いや〜ん、逃げないで〜ん\(-o-)/」

 「ギャ〜〜〜! 怖い〜〜〜!!!」

 「ム〜〜〜〜ン\(-o-)/」

 「ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 「ブッチュ〜〜〜ウ( ^)o(^ )」

 「グワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ(+_+)」



     (了)

(子だくさん)2008.2.12.あかじそ作