「 子供にクリームを塗る会 」

 映画の「続・三丁目の夕日」を観た時、
私は、物語と直接関係ない部分に、いたく感動してしまった。

 本筋ではまったく泣けなかったのに、
そのシーンでは、ムチを打たれたように衝撃を受け、
号泣してしまったのである。

 薬師丸ひろ子演じるところの「鈴木オートの奥さん」が、
スンバらしかったのだ。

 キャリアウーマンでもなく、
本当にどこにでもいそうな普通のお母さんなのだが、
とにかく、温かく、素晴らしい人だった。

 彼女の家で、事業に失敗した親戚の女の子を預かることになったのだが、
その子はお嬢様育ちだったので、
はじめは下町の貧しい暮らしに文句ばかり言っていた。。
 しかし、下町の子供たちが、当たり前のように家の手伝いをし、
家族の暮らしの一端を担っていることに気づいたその子は、
はじめて自分から皿洗いの手伝いを申し出た。

 そこで、薬師丸ひろ子演じる「鈴木オートの奥さん」は、
皿を洗い終えた女の子の手をとり、
「クリームを塗ってあげましょうね」
と言って、優しくクリームを塗ってあげるのだった。

 母親のいない女の子は、
そこで呆然となり、
あっという間に奥さんに心を許してしまうのだ。

 その、
「クリームを塗ってあげましょうね」
が、とにかく優しかった。

 いい人ぶるわけでもなく、
義務感でもなく、
ただただ、
お皿を洗った後に、その手にクリームを塗ってあげましょう、
それだけのことなのだ。

 それだけのことの中に、
母親の慈愛が猛烈に凝縮されている。

 理屈ではない、
損得抜きの、
単純かつ何よりピュアな愛が詰まっている。

 私は、ここで、
周囲の席の人が引くくらいに
オンオン泣いてしまった。

 私の求めていたものは、これであったか、と。

 そう思ったら、もう、号泣どころではなく、
慟哭に近い声をあげてしまった。

 私の母は、私を愛情たっぷりに育ててくれたが、
今イチ、スキンシップを好まなかった。
 だから、私は、幼い頃から本当に肌が淋しかった。
 頬が、手の甲が、肩が、背中が、
いつも涼しく、冷たい風が吹いていた。

 実は私は、
気軽にハグしたり、みんなで肩を抱き合って「はっはっは」
・・・・・・というようなことを好むタイプなのだった。
 だから、自分の子供たちに対しては、
充分スキンシップをとりながら育ててみたつもりだったが、
最近は、横着になってしまい、
アトピーの子供たちに
「そこにクリーム入ってるから自分で塗っときな」
と言って、セルフサービスにしていた。
 子供がちょっとした怪我をしたときも、
小さい頃は、消毒をしたり絆創膏を貼ってやったりしていたのに、
今では、
「消毒したの?!」
と怖い顔で言うだけだった。

 捻挫をした中学生の息子には、
「シップ貼っとけ」
で充分だと思っていたが、
そう言われた時の息子たちは、
いつもシュンとしていた。

 もう大きくなった息子たちに対して、
過保護に1から10まで世話してやるつもりはない。
 毎日朝から晩までひっついて、べたべたして回るつもりもない。
 それでは彼らは嫌がるし、私も嫌だ。

 だから、ちょっとクリームを塗ってやるくらいがちょうどいいんじゃないか?
 怪我をしたときに、
「どれ見せてみな」
と言って、ちょっとした手当てをしてやるくらいのスキンシップは、
むしろ必要なんじゃないだろうか?

 いいおばさんになった自分でさえも、
怪我したときくらい心配して欲しいし、
背中にシップを貼るときくらい、
誰かに手伝って欲しい。

 そして、
「はい、できたよ」
と優しく言われたら、
2〜3日位は、素直ないい人でいられる。


 そうだ。
 そうしようじゃないか。

 今の世の中を良くするには、子供の心を良くすることが大事。
 子供の心を良くするには、親の愛情が大事。

 じゃあ、親の愛情って、実際何よ、
今だって充分愛してるけど、ちっとも良くなりゃあしないじゃないの、
というみなみなさま、

 「子供にクリームを塗ってあげましょうね」

で、いこうじゃありませんか!

 何も難しい育児論は要りません!

子供にクリームを塗ってあげましょう。
 絆創膏を貼ってあげましょう。
 シップを貼ってあげましょう。

 そして、にっこり笑って、
「はい、できましたよ」
と言いましょう。

 こんなことをされて悪い子に育つヤツがいるでしょうか?

 いや、いない。
 いや、あんまりいないと思う。

 とにかく、もう、今日から、今からできる親の愛なのだ。

 さあ、子供にクリームを塗る会、発足です!! 





      (了)

(子だくさん)2008.2.19.あかじそ作