「 頭ん中ビジー状態です 」

 三男も中学生になり、
「お兄さん3人とチビふたり」になったことで、
やっと最近、「家じゅうチビだらけ」では、なくなってきた。

 それでも子供が大きくなればなったで、
違うトラブルや面倒がいろいろ生じてきて、
今まで使ったことのない神経を使うようになり、
それはそれで大変だったりする。

 おとなしかった長男が夜中の繁華街で補導され、
まったく勉強しない次男が受験生になってますます勉強せず、
突然三男が野球少年になり、
チビふたりは、相変わらずバタバタうるさい。

 はっきり言って、現在、私は、
「うすらウツ」状態に陥っている。
 家事が、できかねる状態になってたりする。


 と、いうのも、
新学期の役員決めの時、
ちょっとだけ仲のいい人たちと一緒に雑談し、
近くの席に座って、いろいろ話しているうちに、
もう、イヤんなっちゃったのである。

 姉御肌でいい人だなあ、と思っていた人が、
入学式の間じゅう機関銃のように人の悪口を言い続け、
それをずっと聞いていた私は、
まるでたっぷり毒を飲まされたように、
その日から具合が悪くなってしまった。

 更に輪を掛けて、
これまた中途半端に仲のよかった人たちが、
私のピリ辛ジョークに違和感を覚えたらしく、
あからさまに私を避け始めたのだった。

 普段から夫に、
「君の冗談はシュールすぎる。
誤解を招くから、一般市民に向けて放つのは危険だ」
と忠告されてきたが、
ついつい、その場がシーンとすると何か言わなければと思い、
ぶっ飛んだ冗談を放ち、引かれてしまったのだった。 

 それでも、毎日必死に
子供たちの新学期が安定するまで奔走してきたが、
5月になって、少し落ち着いてきたとたん、
ど〜〜〜ん、と、疲れが出てきた。


 首の椎間板ヘルニアでヒーヒー痛がっている私の横で、

 「ああ店長性格悪い、バイトやめたい」
 「塾の宿題終わってないから休んでいい?」
 「お母さん明日部活5時半起きで弁当と水筒とスポーツドリンクよろしく」
 「また今日木村君にズボン下ろされた」
 「おかあしゃん、《スポンジボブ》のビデオかけて!」

 と、子供5人が同時に話し掛けて来る。

 それを、ひとりひとりに対して真剣に
 「上司にグジュグジュ言われたくなかったら、きちんと仕事すりゃあいいんだよ」
 「『宿題終わってない』って、自然災害みたいに言うなよ。悪いの自分だろ。塾行って叱られて来い」
 「何時に出るの? 試合? 交通費は? 自転車で駅まで行くの?」
 「ちゃんと自分の口で『ズボン下ろすな!』って言いな! 低くて怖い声でね!」
 「《スポンジボブ》ばっかり見すぎだって」
と、答えると、これまたみんな同時に、

 「でも、ちゃんと仕事しててもイチャモンつけてくるんだよ、アイツ」
 「だって、凄い量の宿題なんだってば。学校の宿題も終わってないからさあ!」
 「家出るの6時10分。交通費は往復600円だって。駅の駐輪場代150円もいい? 」
 「ヤメテって言ってるのに毎日やるんだもん」
 「《スポンジボブ》じゃなきゃヤダ〜〜〜!」
と、言う。

 それに対して、また私が、
 「早く帰りたいとかやめたいとかいう気持ちが勤務態度に出ちゃってるんじゃないの?」
 「遊ぶ前にやることやりなさい! 電気代や水道代払わないでパチンコにつぎ込むような大人になっちゃうよ!」 
 「交通費750円ね。でも予備で500円くらい多めに持って行けば。はい、これお金」
 「ニヤニヤ笑いながら『ヤメテ〜』って言ったって、楽しんでると思われるよ。もっと強く言わないと」
 「目が悪くなるよ」
とひとりひとりに言い、更に子供らは、

 「ちゃんとまじめに働いてるつもりだけどなあ〜」
 「そんな大人にならないってば〜」
 「ええ〜、予備要らないよ、失くしそうで怖いよ〜」
 「言ってもやめてくれないんだよ〜。先生も叱ってくれないし」
 「《スポンジボブ》見たいの〜!!!」
と言う。

 「だ〜〜〜〜〜か〜〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜!!!」

 もう、ただでさえ精神的に落ちまくっているんだから、
そんないっぺんにいろんなこと言ってきて、
あたしゃあ、どうしたらいいんだか、もう、もう、もう、
本当に、もう、わかんなくなっちゃうんだってばよお!!!

 「ううううううううううううううううううううううううむむむむむむむむむむ、
 だ〜〜〜〜〜、か〜〜〜〜〜、ら〜〜〜〜〜〜!
 感情的にならずに粛々ときちんと働けば文句言われないし、言われても気にならないし、
やらなければいけない課題をきちんとやれば、遊んだってかまわないし、
出先で何があるか分からないからお願いだから多めに持ってって欲しいし、
嫌なことされたら大きな声で『やめろ!』と言える男にならなきゃ、将来家族は守れないし、
ビデオばっかり見てちゃダメだっつうの〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 「お、お母さん?」

 「首が痛いっつうの〜〜〜〜〜!!!」


 子供たちは、みな、ぽか〜〜〜〜ん、としているが、
私は、もう、とっくに、いっぱいいっぱいだ。
 聖徳太子じゃねえし〜!
 角野卓造じゃねえし〜!

 頭ん中ビジー状態ですぅ〜!
 
 固まっちゃいましたけど〜!
 強制終了しかないっすね〜!
 
 もうねえ!
 こうなったらねえ!
 私ねえ!

 生きながらにして、生まれ変わるから!
 今日から、違うキャラになるから!

 小さいことにチマチマチマチマ悩むの飽きたし!
 しがらみで自分が削られるの懲りたし!
 心配しすぎて逆に病気になりそうだし!
 心配して一生懸命忠告しても、家族にうるさがられるだけだし〜!

 この髪型も、
ファッションも、
部屋のインテリアも、
全部ひっくるめて飽きた!

 もうねえ、心配なんてしないから!
 冷静に、自分のやるべきこと、ちゃんとやって、
その後は、もう、神様仏様ご先祖様にお任せするわ。

 粛々と平常心で働いて、
 やりたくてもやったことない髪型にして、
着たくても着たことない服着て、
やりたくてもあきらめてたインテリアにして、
何だかわからないしょうもない縛りから解放されるわ!

 夫や子供に口うるさく注意したって、
聞いちゃいないもの!
 魂の叫びも、年がら年中叫んでたら、
聞き流されるっつーの!

 聞き流されるから、余計にむきになって、
何が何でも聞き入れさせようとして、
必要以上にキツイ言い方したり、長い説教しても、
逆効果!

 何か、インパクトのある強烈なセリフを相手にぶっ掛けて、
相手に精神的ダメージを与えれば、
自分の思い通りになると思うのは、大間違い。

 これからの私は、違うぞ。

 当たり前のことを当たり前に、静かに語るから。
 ウケ狙わなくていいの。
 面白さ求められてないし。

 「きちんと働いて、それでもひどい仕打ちが続くようなら転職を考えてもいいんじゃない?」
 「四六時中勉強しろなんて言わないから、最低限、課題だけは終わらせなくてはいけないよ」
 「予備のお金があったほうが安心だけど、イヤなら別にいいわよ」
 「嫌なことをされたら『やめろ』と言いなさい。だめなら、先生や親に相談するんだよ」
 「ご飯の後にビデオを見ようね」

 インパクトとか要らないから。
 切れなくていいいいから。

 王道の答えを、冷静に言う。
 それって、もしかして、この時代、一番欠けていることかもしれないじゃない?

 当たり前のことを、当たり前にすることが、
一番難しくて、一番かっこいいことなのかもしれない。


 人の悪口、噂話は、しない。
 そういうのが好きな人とは、付き合わない。

 表面的な当たり障りのない付き合いをしようとしている集団で、
魂をえぐるようなジョークは吐かない。

 これ、当たり前。


 今までの私は、弱かった。

 親友が亡くなって淋しくて、
誰か友達とつるみたくて、
本意でない噂話のただ中に身を置いてしまった。

 大して親しくもない人たちに、
深いジョークを言えば、深い付き合いができるような気がしていた。

 でも、そんなの違う。
 私らしくない。

 清く、正しく、美しく。 
 正々堂々、まっつぐに。

 当たり前のことを当たり前にする。

 そうすれば、きっと、
もうビジーにはならない。
 心は亡くさない。


 毎日、やることがいっぱいあって、
子供の数だけトラブルもがいっぱいあって、
いっぱいいっぱいになりそうになるけれど、
そこを何とか落ち着いて、
一個一個、冷静に、
清く正しく美しく、正々堂々まっつぐに向き合おう。


 せっかく生まれてきたんだもの。

 運良く今日も、生きていられるんだもの。

 ちゃんと生きなくちゃ。



   (了)

(子だくさん)2009.5.19.あかじそ作