話の駄菓子屋 「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 
 
 大学を出て、夫と暮らし始めてから、
私は、自分のペースを崩しっぱなしのような気がする。
 
 それまでは、どんなにハードな環境でも、
そこそこ肩の力を抜くことができたのだが、
生まれてこの方ずっと肩の力が抜けっぱなしの夫といると、
彼の不備だらけの生活をフォローしなければ、と、
必死にならざるを得ず、
(飲みに行って、連れに先に酔われてしまって、
自分は酔えなくなってしまうのと似ている)
更に、「子供は5人」と自分で決めて、実行しているため、
もう、頑張って頑張って、
頑張りすぎているような気がしてならない。
 
 
 最近、自分の人生を生きている気がしない。
 自分らしさを殺しているのが、限界に近付いてきている。
 思えば、いつも、
近くにいる誰かの「マイペース」に巻き込まれて、
自分のペースがつかめないまま、
ぐじゃぐじゃな毎日を送っているので、
もう、自分のペースがどんななのかさえ、
よくわからなくなってきた。
 
 昔から、「頑張りやさん」とよく言われてきたが、
今の私は、「頑張り過ぎやさん」だ。
 
 嗚呼、「過ぎたるは及ばざるがごとし」。
 頑張りすぎるのは、頑張らないのと同じくらいダメですよ、
と、いうことらしい。
 
 夫の不備を責めるたびに、
だんまりを決め込む夫の胸の内から、
「『頑張り過ぎ』が迷惑だ」という旨のつぶやきが聞こえてくる。
 
 そうなのだ。
 
 私という人間は、
ひとりで勝手に熱血全開で、暑苦しく、
家族が、仕事や学校から、やっと家に帰ってきても、
絶対にホッとする暇を与えず、
常に常に頑張っていないと、猛烈に批判するので、
家族にとって、「うざキャラ」なのだった。
 
 交感神経と副交感神経のスイッチが壊れているせいで、
私の辞書に「リラックス」という文字は無く、
【全開バリバリ】か【うつ状態】かのどちらかなので、
周りの人間は、振り回されて疲れてしまうらしい。
 
 夫には、以前から
「【オン】か【オフ】かだけでなく、
ボリュームコントローラーを持ったらどうか?」
と言われていたが、至極ごもっともだ。
 
 頑張りやが暴走しすぎて、
「テメーら、なぜ頑張らない?!」
と、連日、自分の大事な家族を攻撃しているなんて、
ホント、めんどくさいヤツだ。
 
 「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 
 このことばを、毎朝、唱えよう。
 
 ついでに、伊達政宗の家訓(壁書)を、
声を出して朗読しよう。
 
 仁過ぐれば 弱くなる
 義過ぐれば 固くなる
 礼過ぐれば 諂い(へつらい)となる
 智過ぐれば 嘘をつく
 信過ぐれば 損をす
 
 何でもすぐに「過ぎて」しまう私だから、
忙しい朝でも、ちゃんと時間をとって、
毎朝大きな声で、唱えよう。
 
 その唱えることが「仕事」となって、
家族に強制し始めることなどないように気をつけながら。
 
 
   (了)
 
 
 
 (話の駄菓子屋)2010.2.16.あかじそ作