「 2010 夏休みの記録 」


 2010年の夏休みの記録を残すことにした。

 子供たちが、決して子供のままではいない、
ということを、近頃強く感じるからである。


 長男、18歳。高校3年生。

 「この夏、大学受験を控えて猛勉強」と言いたいところだが、
高校生活前半での学業の怠りがたたり、
今になってやっとやる気を起こして机に向かうが、
1、2年生で習ったところがテンでわからない、と言う。

 やっと滑り込んだ高校で、担任の先生に
「無理だからやめときなさいよ」
と、忠告されたのにも関わらず、
学年トップレベルの理系クラスに志願し、
そして、当然ながら常にクラスでビリを通してきた。

 定期テスト前でも連日夜遅くまでバイトバイトを通してきたため、
やはり推薦入学に必要な評定が得られなかった。

 大学は、理系、
それも理工学部の建築科を志望しており、
文系よりもだいぶ割高な学費が予想される。
 しかし、我が家のルールは、18歳成人制であり、
大学の入学金までは出してやるが、
各自奨学金を利用し、
卒業後に、20年くらいかけて自分で返済するように、
ということになっている。

 受験科目は、数学、物理、英語。
 しかし、数学は数学でも、理系なので、何種類もあり、
一概に数学全般が得意だ不得意だ、とは、言えないようだ。

 それでも数学が好きな長男は、
英語、物理は相変わらずクラスでビリだが、
数学だけは、10位以内に入ってきたらしい。

 同じクラスのトップレベルの子は、
模試で、すごいレベルの大学についてもA判定やB判定だというが、
受験勉強よりも、中学生の弟と一緒に連日連夜
「モンハン」とやらいうゲームに夢中になっている長男は、
日東駒専の理工学部がD判定だという。

 滑り止めで地元の工業大学や理系大学校を受けるらしいが、
正直言って、一向に真剣さが感じられない。

 この夏、「オープンキャンパス」巡りにハマって、
勉強そっちのけであちこちの大学に出向いては、
タダで学食のランチをごちそうになったり、
記念品をもらったりして、友人たちと「遠足」三昧だ。

 どうなるんだろうか? 

 大学生の就職浪人が何万人もいるというし、
親としては、大卒の肩書よりも、
資格や技術を身につけて、
食いっぱぐれないようになってもらいたいものだが、
よそのお母さんたちが、
「プロ野球選手になりたい」と言う自分の子供に
「絶対手堅い公務員になりなさい」
と言い、高額な塾代を払って、
子供に学力をつけさせようとしているのを横目に見ると、
「やっぱり、子供の人生、
本人がどんな苦労をしようとも、
自分で選ばせる方がいいんじゃないか?!」
と、思ったりするのだ。

 まあ、うちの夫は、大学で東洋史学を専攻し、
私は、文芸科を専攻したのだが、
ふたりとも、専門分野で一切食えていないことを考えると、
子供たちに偉そうなことは言えないのだった。

 いや、むしろ、
「将来貧乏してもいいから、
若いうちは、大好きな事にトコトンまい進しやがれ」
と、言ってやる方がいいのかもしれない。

 子供の人生は、子供のもの。

 この当たり前の事実を、ついつい忘れてしまいがちなので、
声を出して、はっきり宣言してみよう!

 子供の人生は、子供のものです!!! 
 親のオプショナル人生では、ありません!!!



 次男、16歳。高校1年生。

 次男は、小学校高学年の頃、
格安で海外ホームステイできるツアーに申し込んだが、
惜しくもジャンケンで負け、
人目もはばからず大泣きした経験がある。

 それが原因なのか、高校は、無謀にも国際科を志望し、
塾以外では、一切勉強せずに、なぜか合格してしまった。

 理数系は、目も当てられないほど悲惨なのだが、
英語と国語だけは、テストぶっつけ本番で、
常にほぼ満点なのだった。

 完全に脳の発達が偏っているとしか考えられないほどの
極端なアンバランス。ザッツ文系男。

 「高校に入ったらすぐにバイトを始めてさ、
ディズニーリゾートの年間パスポートを買ってさ、
年がら年じゅうディズニー三昧だぜ!」
 と、前々から言っていたが、
いまだにバイトを見つけられていない。

 本屋に応募したら、
「遅番フルタイムじゃないと雇えない」
と断られ、
回転寿司屋に応募したら、
面接は受けられたが、採用の電話は掛かってこなかった。

 その後、全然バイトを探そうともせず、
夏休みじゅう携帯片手にだらだら過ごしているので、
さすがに私も、
「勉強するか働くかしなさいよ、これじゃニートじゃないの」
と文句を言うと、
「わかってるよぉ!」
と言って、相変わらずゴロゴロしている。

 長男は、高校入学後、
携帯電話代も遊びに使うお金も、
自分でバイトして稼いできたが、
3年になって受験に専念するため、バイトをやめた。

 そして、次男は、バイト浪人。

 したがって、高校生ふたりの携帯代を
私の少ない収入から捻出しているので、
たまったものじゃない。

 その上、三男が野球部の遠征費で、
連日2000円、3000円、と持って行くので、
集計すると、月5万円以上は、
子供がらみの形の無いものにサラ〜ッ、と、消えていくのだ。

 「おい、ついにわが家の貯金が底を尽いたぞ!」
と、先日、子供たちに宣言してやったら、
長男は、
「お母さん、ごめん。早く大学受かってバイトするからね」
と言い、
次男は、再びバイト探しを始めた。

 週に一回の軽音部でのバンド練習で、週3回のバイト。
 そして、週1回のディズニーリゾート。

 大学には行かずに、デザイン専門学校に進学し、
雑貨デザイナーになる。

 というのが、目下、次男の計画らしい。

 夏休みじゅう、ゴロゴロしていたかと思うと、
疲れて居眠りしている私にタオルケットをそっと掛け、
家族全員分の昼食や夕食を作ってくれたりもする。

 ただゴロゴロしているだけじゃないんだろう。
 ヤツは、三年寝太郎なんだと、私は見た。



 三男、14歳。中学2年生。

 中学に入ってから野球を始めた。
 ナイターも見ない、高校野球も興味なし、
運動なんて縁が無い、という家族において、
たったひとりの体育会系中坊だ。

 初めはルールもよくわからず、
走っちゃいけない場面で走ってはアウトになり、
走らなきゃいけないシーンで立ちすくんでいてアウトになっていたが、
ここのところ、地道な練習が実りだし、
試合に出してもらえるようになってきた。

 打席に立っても、空振りばかり、
当たったところでゴロやフライ止まりだったのが、
最近は、だんだん塁に出られるようになり、
昨日は、初めて3ベースヒットを打ったのだという。

 今日、炎天下の練習から帰ってきた三男は、
生まれて初めて背番号をもらってきた。

 近く行われる新人戦に出られるらしい。

 この猛暑の中、真黒焦げになるほど日に焼けて、
ガリマッチョになるほど練習を頑張った甲斐があったじゃないか。

 めげずにコツコツ努力し続ければ、
きっと立派な実が実る。
 この願いをこめてつけた三男の名前。
 名前負けしない子に育ってきているじゃないか。

 ああ、よきかな、よきかな。



 四男、10歳。小学5年生。

 女王様のような末っ子長女の世話をよくやってくれている。
 私が安心して仕事に出掛けられるのも、
四男が、長女を一生懸命見ていてくれるからなのだ。

 それにしても、
私クリソツの長女を、夫クリソツの四男が、
足蹴にされながらも必死に世話しているのを見るにつけ、
「ああ、私、夫にわがまま言いすぎかしら」
と、反省せずにはいられない。

 長女は、頑張り屋だが、わがままだ。
 四男は、マイペースだが、人に優しい。

 二人でああじゃない、こうじゃない、
と、話し合いながら、
なんだよ、この野郎、うるさい、バカ、
と、喧嘩しながら、
それでも肩寄せ合って、
二人で一生懸命留守番している姿は、
きっと我々夫婦の姿と、やっぱりクリソツなんだろう。


 さて、目下、裁縫に凝っている四男だが、
早速、夏休みの自由作品として、
熱中症予防の、首を冷やす道具を縫った。

 私が普段、配達の仕事で使っている道具に、
ヒモ状で、濡らして首に巻き、
その気化熱を利用して熱中症を防ぐ、というものがある。

 そのヒモは、濡らす前は、
ペッタンコでサラサラの粉が入っているのだが、
水にしばらく晒すと、粉がゼリー状に膨らんで、
保水力が増す。

 おそらく、中に入っているのは、
高分子吸収体だろう。
 紙オムツなどに入っていて、未使用だとサラサラで軽く、
濡れると固まって漏れない、というヤツだ。

 そう言えば、長女の使い残した紙オムツが、
部屋の隅に置きっぱなしになっていた。
 そのことを何の気なしにポロッと言うと、
それを聞いた四男が、
「僕、首を冷やすヒモ作るよ」
と、叫び、立ちあがった。

 早速彼は、生地を探し始めた。
 棚の奥から、長男が小学校の頃に使っていて、
今はもう誰も使っていない給食ナプキンを見つけた。
 都合のいいことに、生地の目が非常に細かい。
 これなら、中に高分子吸収体を入れても、漏れにくいだろう。

 正方形のナプキンを縦に三等分に切り、
長いヒモ状に縫い直した。
 続いて、縦に中表に合わせ、筒状に縫った。
 次にオモテに返して、3等分した中央の布の端を横に縫った。
 その中に、切り開いた紙おむつから取り出した高分子吸収体の綿を詰め、
割りばしでぐんぐん筒の中に押し込んでいった。
 綿は、先ほど、四男が横に縫った線で行き止まりになり、
ちょうど首の部分だけに綿が入るようになっていた。
 ほどよく綿を入れ終わると、
また、綿の入れ終わりの部分を横に縫った。

 これで、綿は、布の中央部分3分の1にとどまり、
ちょうど首の部分だけに当たるようになった。
 これだけでは、綿がだんだん偏ってしまうので、
中央部分の布を縦横に縫って、綿を定位置に留めた。

 四男は、これらの工程を数時間で終わらせ、
台所の流しまで走って行き、筒の中央部分を水で濡らした。
 中央部分三分の一が、プクプクに膨らみ、
首に巻くと、ひんやりと冷たく、
それがまた、プリプリで長持ちしそうだった。

 「ぼく、これ、毎晩寝る時首に巻くんだ」
と、ニコニコ笑う四男に、思わず、
「やるな、おぬし」
と、ニヤニヤ笑いながら言いつつ、
この子の無限の可能性に希望を見出す母であった。



 長女、4歳。幼稚園年中。

 終業式から帰ってくるなり、
「彼氏」のタカヒロ君からの手紙を見せてくれた。

 折り紙で出来ていて、
大きいピンクのハートと小さいハートが、タコ糸でつなげてあり、
つたない文字で、

「だいすき LOVE」

と、書いてあるではないか。

 ああ、思っていたよりも交際が進んでいたか!

 その手紙を無理やり妹に見せつけられた兄たちの不機嫌さといったら、
手がつけられないほどだった。

 「男のくせにピンクのハートってよぉ、【タラシ】か!」
 「【LOVE】って何だ。ママの指導でラブレターかよ」

 と、「幼児のお手紙」に本気で難くせを付けている。

 そんな長女は、
私の仕事を見よう見まねでマスターし、
洗濯物を干し、炊事を手伝い、皿を洗い、
洗濯物を取り込み、それをたたみ、
ぬいぐるみをおんぶしながら拭き掃除をしたりして、
夏休みの間じゅう、チィママの役割をきっちり果たしてくれている。

 縫い物の段取りにつまづき、
イライラしたり半べそをかいている四男をハグしながら、
「だいじょうぶだいじょうぶ、おちつくのよ」
などと慰めている。

 かなりわがままなところもあるけれど、
とてもしっかり者で、頼りになる頑張りやさんだ。

 ところが、これだけはやめてほしいということがあるのだ。

 この夏、長女は、テレビのワイドショーで
某子供演歌歌手がアンパンマンの歌を演歌調で歌っているのを見た。
 よく知っている歌、大好きな歌を、
独特のイントネーション、独特のこぶし回しで歌っているのを聴いた。

 長女の目が、すさまじく輝いたのを、
私は見逃さなかった。

 それ以来、長女は、4歳にして、
全ての歌を演歌調で歌い始めた。

 妙なこぶしをウィンウィン回して、
可愛げのない歌い方で一日中何かを歌っているのだ。

 「あ〜〜〜、イライラする! 誰かあの歌い方やめさせて〜!」

 家族みんなで頭を抱えている。

 そっくりだ!
 恐ろしいほど、そっくりなのだ!

 例の某子供演歌歌手を、
声の出し方、こぶし回し等、完全コピーしてしまっている。

 「いやだ〜〜〜!!!」

 
 今日も誰かが長女の歌に悩まされている。



 連日35度以上の猛暑!

 勉強しない受験生!
 ニートと家事手伝い、紙一重の青年!
 飛躍すれども、遠征費が尋常じゃない中学球児!
 裁縫にハマる小さな夫!
 演歌にハマる小さな私!

 これらが、毎日家に居る。
 腹が減った、ご飯何、と、
 一日3億回私にせがむ。

 2010年、夏休み。

 子供が、もうすぐ子供でなくなる予感を抱きつつ、
遠い目をして、ひと節うなるのだ。


 ♪あんいっと〜〜〜ぉ、
 ♪勇気だけんがぁ〜〜〜、
 ♪とん〜〜〜も〜だっちい〜だあ〜〜〜〜〜ん♪


 は〜〜〜あ!




   (了)


(子だくさん)2010.8.10.あかじそ作