「 憑き物落ちた 」


 3年ほど前から子供がらみのトラブルが続き、
すっかり人間不信に陥っていた私は、
普段、一切占いの類を信じないのに、
病院で雑誌の占いコーナーを読んでいる自分にびっくりした。

 それほど、弱り果てていたのだ。
 心の底から疲れ、気を張り、人を疑い、
人生を義務感だけで生きていた。

 何の気なしに読んだ占いのページには、
東洋のものにも、西洋のものにも、
どんな種類のものにも、みな一様に、
私の生年月日について書いてあることは、
【ここ数年最悪だったバイオリズムが、2012年から上向きになる】
という内容だった。

 いいことだけを信じたいので、
これを支えに、ここ数年耐え抜いてきたが、
ついに先日、いきなり、
人生においての「気分の最低ライン」をバウンドし、
上向きになる瞬間を迎えた。

 驚いたことに、私は、底辺にバウンドする音を聞いた。

 無音の音だ。

 バウンドの瞬間、フッ、と無風の風が吹いた。
 確かに。

 突然、肩が軽くなり、気分が晴れた。
 気が軽くなって初めて、
今までずっと、肩の上に
数十キロの重しが乗っていたことに気付いた。

 何だったのだろう。

 変なきっかけだった。

 夫が仕事の合間に、四男の中学の入学式に顔を出し、
委任状を提出しないで役員選出を抜け出した、ということを
夫から聞いた時だった。

 「『汚いヤツだ』って言われて、また3年間、私は村八分に遭うんだよ!」
と、夫に激昂し、 

 「ああ、もうダメだ!」

と、絶望した瞬間だった。

 ただでさえ重い肩の上に、
もうひとつ、重い荷を背負った瞬間、
突然、肩から重い荷物がすべて、崩れ落ちたのだった。

 「もう、いいや!」

・・・・・・と、思えた。

 突然、音も無く、
今まで背負っていた大荷物が体から落っこちて、
吹いてもいない突風に持っていかれてしまった。

 軽い!

 体が、いや、心が、軽い!!!

 何なんだ、これは!
 憑き物が落ちた、とは、このことか?!

 突然、視界が明るくなり、身も心も楽になった。

 バイオリズムの折り返しだったのか、
憑いてた悪霊が退散したのか、
それとも、単に、
背負う重さの限界点を超え、荷物が肩から崩れ落ちただけなのか?

 はたまた、無意識のうちに、心の防御機能が働いたか?

 まあ、何にせよ、気分がいいぞ!
 3年ぶりに心が晴れた!

 こういうことがあるんだな・・・・・・

 落ち込んで落ち込んで、どん底まで落ちたら、
あとは、浮き上がるしかない、ってよく聞くけど、
それにしても、こんな突然?


 嫌なことばかり続いたここ数年だったが、
最近、いい話も聞こえてきた。


 「お母さん、クラスでも部活でも、友だちができたよ」
 三男が、スマホから目を離さないまま、言った。

 「よかったじゃん! お前なら大丈夫だと思ってたよ」
 三男の顔を覗き込んで、背中をポン、と叩くと、
 「うん・・・・・・」
と、少しニヤッとして、液晶画面を人差し指でこすっている。


 これから、少しづつ、いいことが増えていくんだろう。

 この3年で経験したことは、
これから生きていくために必要な特訓だったんだ。
 親としての必須課程で、絶対履修の単位だった。

 私も、三男、四男、長女と共に、
見えない何かから卒業し、
また、新しい何かに入学したのかもしれない。

 よ〜〜〜し!
 何か、新しいことに挑戦しようっと!

お母さんも、何だかわからないけど、何かの1年生だぞ!

 三男は、テニス初心者、
四男は、卓球初心者で、
それぞれ部活を始めたから、
スタートラインは一緒だもんね。

 「はじめの、い〜〜〜っぽ!」
と、大きな声で叫んで、
エプロン姿のカーチャンも、飛ぶぜ!

 前へ!
 前へ!


 (了)

(しその草いきれ)2012.4.24.あかじそ作