子だくさん 「買い物しない1週間」
 
 
 
 小2の長女が高熱を出した。
 
 お兄ちゃんたちは、みな、いない。
 次男は、まだ夏休みに入っていないので、遠距離通学中で、
毎日、ほぼ留守。
 三男は、朝から晩まで部活で、全然家にいない。
 頼りの四男は、市の企画で9日間の旅行に行っている。
 
 夫の帰りは、毎晩遅く、
バアバは、深夜番組にハマっているので、
朝夜逆転生活で、いつも昼まで寝ている。
 
 おまけに私の仕事は、今週ずっと忙しい。
 
 高熱を出した夏休み中の7歳を、
ひとりにして放っておくわけにもいかず・・・・・・。
 
 さてどうしたものか?
 
 しかし、いた。
 
 毎日、暇を持て余している人間がひとり。
 
 じいだ。
 
 精神年齢3歳の、あの実父が。
 
 ちょっとものを頼むと、
必要量の1万倍くらいの気負いをして、
頼んだ以上のことを張り切ってガンガンやり、
疲れ果てて帰り、
後から、グジュグジュグジュグジュ文句を言い続ける父に、
本当は、何かを頼みたくはなかったが、
今度ばかりは仕方ない。
 
 私が仕事で留守にする数時間、
長女と一緒に家に居てもらうことにした。
 
 仕事の後にかかりつけの医院で診察を受け、
薬を出してもらっていたので、
朝食後、きちんと飲ませてから出かけ、
昼の分は、自分で飲むように、と、
1回分の薬とコップの水を一緒に置いていく。
 
 朝、おかゆを食べさせた後、、
飲むゼリーとスポーツドリンクを枕元に置き、
氷枕を頭に敷いて寝かせた。
 
 じいには、ただ、家にいて、
長女に何かあったら私に知らせてもらえればいいのだった。
 
 ところが、じいは、孫娘が心配なあまり、
「めしは食わせてるのか?!」
「水分は摂らせているんだろうなあ?!」
「エアコンの温度は、これでいいのか?」
「医者には毎日診せなくていいのか?」
などと、ひっきりなしに私に詰問してくるので、
仕事の疲れもあって、私も「ダイジョブダイジョブ」と雑に答えてしまい、
それによって、余計にじいが心配し、
ガミガミガミガミ私を責め立てるのだった。
 
 夏風邪から持病のぜんそくに移行しないように、
早めに抗生物質を処方してもらったので、
急激によくなっている。
 
 だから、じいには、ただ、家に居てもらうだけでいい。
 
 しかし、じいという男は、
【ただそこにじっとしている、】ということが、
一番苦手な超多動人間なのだった。
 
 「ホントは、9時半から○○○スーパーの特売に行くはずだったのに」
とか、
「10時半には、蕎麦屋に行きたかったのに」
とか、文句ばかり言い、
挙げ句の果てには、
「熱下がってたら、この子と二人で蕎麦屋に食いに行っていいか?」
などと、病児を連れてお出かけしようとまでしている。
 
 「いやいやいやいや、じい。
 忙しいところ申し訳ないんだけど、
ただ、私が仕事から帰るまで、
うちでコーヒー飲んだり、テレビ見たり、
くつろいでいてもらっていいから。
 そんな、あれこれやってくれなくてもいいから」
 
 と、言っても、
「おれにも予定があるんだけどなあ!」
とか、
「1日おきに蕎麦屋に行かないと、予定が狂うんだよな!」
とか言って、
毎日、引き上げるときに言う恩着せがましさが止まらない。
 
 そんなわけで、これ以上じいに物を頼むのが嫌で、
食糧調達を深夜帰宅の夫に頼むほかなかった。
 
 スーパーの深夜帯は、
昼間のような特売品があるわけではないので、
何を頼んでも何割か高くつく。
 
 したがって、極力、家にあるものを使って食事を作るのだが、
一日中炎天下でテニスしまくる高校生の三男や、
お腹ペコペコで遠距離通学から帰宅する次男は、
ちんまりした少量のあり合わせなどで満腹するはずなどなく、
毎晩、がっつりした物を欲するのだった。
 
 安売りの時にたくさん買いだめしておいた肉類は、
3日目にとうとう使い切り、
豆腐も、炊き込みご飯の素も、カレーも、冷凍食品も、
すべて使い切ってしまった。
 
 野菜室もガラガラで、
キャベツもネギもない心細さといったら、もう、「とほほ」だった。
 
 「もう、安さとか底値とか、そんなこと言ってられっか!」
と、ついに夫に買い物を頼むのだが、
深夜に買ってきてもらうため、実際、その食材を料理するのは、
翌朝以降になる。
 
 今の今、食べるものが無いのは、非常に困る。
 
 いつも1日おきに大量のおかずを差し入れしてくれる母も、
こういう時に限って、全然音沙汰が無い。
 
 じいが言うには、次の年金が振り込まれるまで倹約中らしい。
 
 普段、1日おきか2日おきに大量の買い出しをしないと
すぐに食料が尽きてしまう我が家において、
1週間買い物に行かないということは、異常事態だ。
 
 災害に備えて備蓄していたので、
何とかしのげているけれど、
備蓄を使い切ったところで災害が起きたらどうするのだ。
 
 早いうちに買い物をして、
日々の食糧と共に、消費した備蓄品を買い備えなければ。
 
 徒歩3分のところにコンビニもあるし、
車で5分のところにスーパーがいくつもあるけれど、
病児から目が離せないときは、
何もかもが果てしなく遠くに存在しているのだった。
 
 あれから1週間。
 
 長女の風邪も治って、
珍しく休みの揃った次男三男を連れて、
長女と私は、4人で大型ショッピングモールに出かけた。
 
 久しぶりの外出で、みんな浮かれてしまい、
雑貨や布地などを買って、半日楽しく過ごしたが、
帰宅後、肝心な食糧を買うのを忘れているのに気付いた。
 
 何しに行ったんだか!
 
 
 (了)
 
 
 (子だくさん)2013.7.30.あかじそ作