「 魔法の杖を手に入れて 」


 夫の前の職場がつぶれた時に、
もらい受けた旧式の業務用電動ドライバー。

 それを使って大きなDIYを行い、
小さな工作ならドライバーを使って「手」でネジを締めてきた。

 趣味がDIYなので、いつも【ねじまわし】と付き合ってきたが、
いつもイライラしていた。

 道具が、自分の思うように使えないのだ。

 働く主婦なので、
いつも何かと用事が多く、
DIYも空き時間を縫い合わせて行うのだが、
業務用の電動ドライバーは、
大きくて重い充電機が付いているし、
充電にも時間がかかる。

 「あ、今ちょっと時間が空いたから、ちょっとあそこ組み立てておきたい」
という時に、その時から充電を始めても、すぐにネジを締められない。

 バカでかくて場所をとるので、
常にコンセント周りで充電しておくこともできない。

 かといって、手でネジを回すには、
硬い硬い合板に歯が立たない。

 いくらキリで下穴を開けても、本当に手に負えない位硬いのだ。

 そこで、しびれを切らして釘を打ってみるのだが、
その硬さに、ことごとく折れたり曲がったりしてしまう。

 もらいものの電動ドライバーの困ったところは、他にもある。
 ドリルが付いていないのだ。

 ドリルの先っちょの部品が入っていなかったので、
木ネジは回せるが、下穴が開けられない。

 じゃあ、ドリルの先っちょだけ買ってくればいいのだが、
それも躊躇する理由がある。

 この業務用電動ドライバー。
 回す力が強力過ぎて、すぐ木ネジの頭をねじ切ってしまうのだ。
ネジ山が潰れるから、ネジが回せなくなるし、
そうなると、ネジ自体を外せなくなる。

 ネジを外すために、ネジ山再生剤を買って直しても、
回す時にやっぱり再生したネジ山もねじ切ってしまう。

 1個ネジを締めるのに、10個くらいのストレスが生じる。

 30個のネジを締める全工程においては、
300個のストレスに見舞われるのだ。

 こりゃあ、たまらん。

 そんなわけで、
忙しさにかまけて保留にしていた「作る予定のもの」が年々増えていき、
今や、あっちもこっちも保留だらけのイライラハウスになってしまった。

 電動ドライバーが欲しい!

 自分好みのものが!

 小さくて、軽くて、パワーが若干弱めで、可愛いデザインのもの!!

 そう思い、時間を作って大きなホームセンターに出向き、
そして、見つけた。

 時代を逆行して生きる私にぴったりの、
時代を逆行した道具を!

 それは、もちろん、「モバイル」でも「無線」でもない。

 「有線」だ。

 「コードレス」でなく、「コード」を長く長く引きずっている。

 しかし、思い立った時にコンセントに差し込めば、すぐに働く。

 これが欲しかった。

 しかも、女性向けのDIY用の、
「小さくて、軽くて、パワーが若干弱めで、可愛いデザインのもの」だった。

 これが、何と、1980円。

 19800円でも物凄く安い方だという電動ドライバーが、
日常レベルのネジ回し&ドリルなので、
ひと桁もふた桁も安い1980円!

 見つけた!
 自分の身の丈に合った魔法の杖を!

 自分の身のまわりの物を作ったり直したりするだけなら、
これで充分事足りる。

 私は、すぐにそれを買い、
速攻で家に帰って、作りかけの棚や工作を作り上げた。

 何という気持ちよさ!

 思った時に、思ったように、思うように働いてくれる道具。
 道具というものは、かくあるべきなのだ。

 そこで、ふと、また手が止まった。

 このレベルの電動のこぎりが欲しい・・・・・・

 私は、のこぎりが下手だ。
 根性が曲がっているので、まっすぐに切れたためしがない。

 有線で、力が弱く、最低限の機能で十分だ。
 いや、むしろ、それがいい。

 お家の中で、ゆっくりと、そっと、
思うような形に材料を切りたい。

 そして、すいすいとネジをいくつも打ちこみ、
思うような形に組み立てたい。

 どこにも売っていない、
自分の思った通りの生活用品を手作りする喜び。

 「じぶんち」のサイズ、色、家族構成、暮らし方にピッタリの、
オリジナルの家具やインテリアを工作する面白さ。

 不細工で、他では全然通用しないかもしれないが、
うちでは、家族が家具に合わせて暮らすのではなく、
家具が家族に合わせてくれる。
 手作りならではの愛着が、見るたび目を喜ばせ、
アロマのように暮らし自体を何となく幸せにする。


 家を作ることは、家族を守る巣を作ることであり、
それは、ワンタッチやワンクリックでできる作業ではない。

 お金を出せば、すぐに、
誰かのデザインの誰かの労働が手に入るけれど、
私は、あえて自分でデザインして、自分で作りたい。

 その行為自体が好きだ。

 カラスが針金ハンガーで巣を作るように、
一個一個材料を自分で集めてきて、
一個一個組み立てて、
自分の巣を作っていきたい。

 一生をかけて、一個づつ一個づつ、
自分の暮らしを組み立てて遊びたい。

 完成を目指しつつも、
完成できないことを、楽しみたい。

 だから、今日もホームセンターには、
材木の木目をよみ、
ニスや刷毛を比べ、
ネジや釘やチェーンやフックを選び、
唸ったり、ニヤニヤしている私がいるのだ。


【 追記 】

 

 これは、もう一本の魔法の棒。

 娘が学校に行っている間に、
昨日一緒に百均で選んだ毛糸ひと玉でマフラーを編み、
机の上にさり気なく置いておく。

 間違って首を吊らないように、
短めで、交差して一方を差し込むタイプ。

 娘の喜ぶ姿を想像して、
くすくす笑いながら編むのが、至極の時。


  (了)


(話の駄菓子屋)2013.11.19.あかじそ作