「 中年ジャンプ 」

 ワールドカップの、日本対ロシア戦を観て、
私は、ぶるぶるきてしまった。
 何がぶるぶるかって、
ゴン中山にぶるぶる来たのだ。
 
 4年前のワールドカップと違って、
日本は、びっくりするほどサッカーが上手くなっている上に、選手が若い。
 若いだけじゃなくて、もう、先代の選手とは人種が違っている。
 
 私たちの世代(30代中盤くらい)までは、
体育会系と言えば、努力だ根性だの精神論で
ケツを蹴っ飛ばされながら運動していたが、
今の若い人たちは違うようだ。
 最初から無駄な力が抜けていて、持っている力を
どんどん出せている。
 我々は、頑張れ頑張れと言われていたせいか、
力が入りすぎて筋肉が緊張し、どうしても、本番に体が動かなかったのだ。
 
 長嶋茂男が、お気楽そうに、スカーン、とナイスプレイを成し遂げていたのは、
彼が現代のスポーツ選手に通じるところがあるからだろう。
 反対に言えば、今の選手は、みんな長嶋茂男なのだ。

 イキイキと、楽しそうに、しかし冷静に、
世界の大舞台で実力を発揮してしまう。

 しかし、私の感動したのは、そこではない。

 途中から出てきた、同世代の中山の、あの、動きにぶるぶるきたのだ。

 若い選手たちと比べると、明らかに動きが鈍い。
 彼が若かった時と比べると、悲しくなってしまう位、止まって見える。
 しかし、中山は、試合の流れとは関係なく、
相手選手にしつこく絡み、どたばたとコートの中であがき、
醜いほどの執念がドクドクと滲み出ていた。

 しかし、相手のノッポで白いロシア人たちは、
「ナ〜ンナ〜ンデ〜スカ〜、コイツ〜ハ〜(~_~;)」
という戸惑いが明らかに見え、そういう意味では、
中山は、充分試合をかき回したのだ。

 私は、そんなジタバタと鈍くてドンくさい、
(しかし、かつてはエースで若くてピチピチだった)中山に、
自分の姿を重ねてしまい、もう、切ないやら、悲しいやら、
しかし、嬉しいやらで、もう、ワケのわからない震えが、ぶるぶる来てしまったのだった。

 そうなのだ。

 私たち中年は、もう、古い世代の人間なのだ。
 でも、古い世代には、古い世代のダンディズムがある。
 熱血で、泥臭くて、垢抜けない、
鈍くて、カッコ悪くて、結果の出せない、
そんな私ら中年も、中山を見習わなくっちゃいけないのだ。

 粘って粘って、みっともないくらいに粘って、
蹴られても、イエローカードを出されても、
下唇噛んで、試合に出るのだ。
 
 「私の人生、パッとしないわ」なんて、
くよくよしている場合じゃないのだ。
 昔は良かった、なんて、
過去の栄光に浸ってる場合では、全然ないのだ。

 今、現在、この瞬間に繰り広げられている、
この人生の後半戦で、ちゃんと本気でプレイしなくちゃ。
 みっともないくらいに、ジタバタして、結果が出なくても、
出口が見えなくても、本気で生きなくっちゃ。

 私は、中年になった自分にうんざりし、
絶望し、茫然自失になっていた。
 でも、そんな無気力な自分にぶるぶる震え、
切ないくらいにみっともない中山にぶるぶるし、
そして、背筋を伸ばした。

 ありがとう、中山選手。
 少年や青年は、黙ってたって勝手に体がジャンプしてしまうよね。
 だけど、中年は、
「そりゃあ〜〜〜っ!」
って気合入れて、いぶし銀の飛びをしていかなくっちゃね。
 例えボールにかすりもしなくても、「中年ジャンプ」こそが、
哀しくてかっちょいいんだって、よくわかった。

 ぶるぶるして、悲しくて切なくて、
でも、明日からまた生きていく勇気を、
中年中山に教えてもらった。

 私たちの世代のエース、中山は、
我々の魂に鋭くシュートを打ち込み、
確実にゴールを決めてくれたのだ。
 彼は、結果を出したのだ。



(しその草いきれ) 2002.06.10 作 あかじそ