「 おや の きもち 」   テーマ:寝言


 学校から帰ると、とつぜん、お母さんにどなられた。
学校におくれるな、とか、帰りは、より道するな、とか、
お母さんは、いつもいつも、わたしにうるさく言うのだ。

 どうしてお母さんは、いつも、こんなふうに、
ガミガミ言うんだろう、と、わたしは思う。
 わたしになにか、うらみでも あるのかなあ?

 お母さんに聞いてみようかな。
それとも、
「あんまり おこらないでよ」
と、しずかに たのんでみようかなあ?

 あるよなか、トイレにおきたとき、
わたしは、ふと おもいついて、
ねむっているお母さんに、話しかけてみた。

「お母さん、どうしていつも、おこるの?」

 すると、なんと、お母さんは、ねごとでへんじをしてきた。

「ほんとうは、おこりたくないんだよぉ〜。
いっしょうけんめいになっちゃうと、おこっちゃうんだよ〜」

 わたしは、また話しかけてみた。

「お母さん、おこらないでよ」

 お母さんは、ねながら、また、こたえた。

「みんなぶじに大きくなってほしいだけなのよ〜。
それだけのために、お母さん、もうひっしなのよ〜」

 わたしは、なっとくできなかったので、もういちど、言った。

「お母さんは、『おや』なんだから、あたりまえでしょ!」

 すると、お母さんは、かなしそうに、小さな声で言った。

「『おや』をやるのは、たいへんなんだよ〜。
まいにちまいにち、なきそうなくらい、たいへんなんだよ〜」

 わたしは、ちょっとお母さんがかわいそうになってきた。

「お母さん、あんまりいっしょうけんめいにならなくてもいいよ。
わたし、だいじょうぶだよ。だから、おこらないでよね!」

 お母さんは、まるで子どものように「うん」と、うなづくと、
ころっ、とねがえりをうって、むこうをむいてしまった。

 よく朝、いつものようにお母さんは、
「はやく したくしなさい!」
と、あいかわらず おこっている。

 でも、
「はやくー!!」
と、どなったあと、きゅうに、なにかをおもいだしたように、
しずかになった。
 しずかな言いかたで、
「おくれるよ。いそいでね」
と、言った。

 かおがオニじゃなくなっている。

 わたしが、よなかに せっとくしたのが きいたみたい。
お母さんが「ひっし」じゃなくなった。
 
 お母さんにとって、こどもをそだてたり、うちのしごとをしたりするのは、
運動会の「かけっこ」みたいなものなのかもしれない。
 いつも、歯を食いしばって、ぜんそくりょくで かけだしていて、
がんばりすぎていたのかもしれない。

 同じ運動会でも、ダンスみたいに、たのしそうなものだったら、
きっとお母さんは、あまりおこらなくなるかも!

 お母さんが、いつもわらっていてくれるかも!

 きょうも、よなかに、お母さんに話しかけちゃおう。
さいみんじゅつを かけちゃおう。

「お母さん、じんせいを おどるんだ!」

 ひっひっひ。
はやく よるにならないかな?
 お母さんが ねぼけて、よなかに とつぜん おどりだしたら、
おもしろいのにな。

                    (おわり)
2001.12.17 作:あかじそ  サキちゃんに捧げる別館11100