インパク会場


pm8:00
混雑した在来線の中で、もうひと事件。


「眠い」と、ぐずる三男。
「あたま、いたい」と、ぐずる次男。
歩きたがって、ぐずる四男。
どろんどろんにローテンションの長男。

四男を抱いて、長男をドア付近の手すりにつかまらせていたあかじそに、
突如、<ばばじそ>の激しい怒声が飛ぶ。
「お姉ちゃん!! 何とかしてよ! これっ!!」
見ると、催眠術にかかった人の様に、次男と三男が、立ったまま
うつらうつらと揺れている。
「寝るな!」
「寝るとぶつぞ!」
なんつう事を言っている、この老夫婦はっ!!
「お姉ちゃん! 絶対に寝かさないで! 連れて帰れなくなるからねっ!!」
絶対に、って・・・・・・。無茶言うよ、この人たちは・・・・・・。
「お姉ちゃん、替わって!!」
<ばばじそ>は、四男を奪い取り、<じじじそ>とともに、
[大きな声で]あやしている。
(あんたら、実際、子供たちよりうるさいって・・・・・・)

あかじそは、車両の端っこにしゃがみこみ、両膝の上に、
次男と三男を座らせた。
すると、さっきから一部始終を見ていた、おじいさんとおばあさんが、
席をゆずってくれた。
「ありがとうございます!!」
丁重にお礼を言って、次男・三男を座らせた。
とたんに、三男は眠った。
次男は頭を抱えた。

「あんたっ!!!」
鬼の様な<ばばじそ>の声が、車両中に響いた。
「まさか、寝かせてんじゃないだろうねえ!!」
三男の頬には、涙が一筋、流れていた。
「寝かせてるよ」
「何やってんのよ!! 寝かせないで!!」
「寝る者は寝るよ」

車両中に、緊迫した空気が張り詰めた。
と、ある駅で、どど〜、と人が大勢電車を降り、だいぶすいた。
とたんに、ぴりぴりしたムードが吹き飛び、ローカルムードが漂った。
歩き回る四男に、「じっとしてられないよねえ」と、
よそのおばさんたちの笑顔が向けられると、<ばばじそ>が
いつもの「孫自慢モード」になってしまった。
「お〜〜〜〜〜〜〜〜っほほほほほほ」
と、かすれた声で笑い、孫を前に差し出し、
「どお?」という顔をする。
「どお?」と言われても、みんな困るのだ。
あんたにとっては、可愛い孫でも、他人にとっては、ただのガキだっつうの!
それが、まったくわかっとらん人なのである。

結局、じじばば宅の最寄り駅に着き、4兄弟は、無事、下車した。