気にするな


 内科検診を受けると、毎回必ず心臓でひっかかる。
「心音に雑音が混じっている」らしい。
 さんざんいろいろな検査に回された結果、結局いつ
も、
「機能性雑音」と診断され、
「日常生活を普通に過ごしている限りは、問題ないでしょう」
と言われる。
 
 要するに、死ぬほどの事じゃないけど、正常でもなくて、
いつも胸が、ざわざわざわざわしているが、気にするな、
と、いうことだ。

 私は、非常にそそっかしい人間で、子供の頃から怪我が多く、
2年に1度は、ギブスをつけているのだが、
右足の靭帯は、ここ30年来、伸ばしたり引っ張ったりの繰り返しで、
完全にバカになってしまっている。
 視力は、左0.3に対して、右目は0.000・・・と、数値としてあがらない、
つまり、ほとんど見えていないので、怪我も身体の右半
分に集中しているのである。
 医者には、毎回、
「シップのみ! 他にどうしょうもないから!」
と言われる。 

 要するに、スポーツ選手とかじゃないし、ただの主婦なんだから、
足首がくらくらでも問題ないのだそうだ。
 そして、治ってもいなくて、いつも、くらくらで痛いが、気にするな、
と、いうことだ。

「死ぬほどのことじゃない」
「気にするな」
 
 わかってるって!
わかっちゃいるけど、実際毎日、胸が苦しくて、足が痛いんだって!


 私の、もうひとつの弱点は、自律神経が失調しっ放し、というところである。
死ぬほどではない。
しかし、いつもぼんやりと具合が悪い。
そして、いつもぼんやりと気分が晴れない。

 生まれてこの方、ずっと「更年期障害」みたいなものだ。
ホルモンが、なにで、自律神経が、なになのである。

 ぼんやりとした頭で、ぼんやりと胸が苦しく、ぼんやりと足が痛み、
ぼんやりと具合が悪く、ぼんやりと憂鬱なのである。
 いつもいつも。

 「命に別状なし」

 でも、命って、何なんだい?
生きていれば、それでいいのか?
食って寝て、心の臓が、とりあえず動いていれば、バンバンか?

 私は、曇天の下、どんよりとした気分で、空を見上げてみた。

 ぽつん、と雨粒が頬に落ちてきて、
「そんなこたぁ、知るもんかい」と、言われたようだった。

   (おわり)