「ドリーム・イン・40℃」の巻


40℃の発熱で、夜中、うなされながら見た夢には、
フラッシュ・バックで、次々といろいろなシーンが現れた。

父が、庭に手作りの鉄棒を作った事。
その鉄棒にぶら下がる、6歳の私。2歳の弟。1歳のイトコ。

母が刺しゅうしたスエードのワンピースを着て、ピアノの発表会に行く道。

「西瓜が安いのよ、早く来て!」
と、買い物から帰ってくるなり、母は、私たちを引き連れて八百屋に行き、
ひとり2個づつ、計8個、持って帰って来た事。

でっかい西瓜の真ん中に、包丁を当て、一気にメリメリメリッと、真っ二つにカットする。
目の前には、真っ赤でキラキラ光る甘い丸が2つ並んだ。
ひとり1/2づつ、スプーンですくって食べた。
鉄の味がしてくるまで、いや、ってほど食べた。

ギラギラの太陽と、子供たちのはじける笑い声と、若い父と母がいた。

<さてさて、まだ楽しい日々は続いているのか、いないのか>
と、突然、藤村俊二のナレーションが入って、
怒鳴り散らす大人の私と、縮こまる子供の私が、対峙しているシーンが現れる。

<アナタ、太陽ですか?>
藤村俊二は、おとぼけ声で、なおも、するどい御指摘だ。

<子供は、毎日が、お祭りだったりするんですねえ、これが>
そういや、大人になってから、何か、つまんないなあ。

<せめて! せめて子供のお祭り時代を、台無しにする事だけは、や〜めて欲しいんですよね〜、いやほんと>

「わかったわかった! もう許してよ、オヒョイさん!」

自分の声で目が覚めた。

ガタガタ震えながら、氷枕を自分で詰め替えて、トコに戻った。
物音に目を覚ましたアカンボに乳をふくませて、そのまま眠る。
脱水状態にもなるわけだ。
水分を摂っても摂っても、一晩に6〜7回は吸い取られているのだから。

添い寝して、乳を吸わせている時、窓の外には、巨大な満月があった。
太古の昔から、オカアチャンはアカンボに、月下で乳をやっていたのだ。
そして、今も昔も、哺乳動物は、こうして、ねっころがって、乳をやる。
子にとっても、母にとっても、気持ちのいいひとときのはずなのだ。

簡単な事を、こねくり回して、小難しくしてしまっている人間は、
一番馬鹿な動物だ。
子供を「大変なお荷物」呼ばわりするなんて、ホント、馬鹿げてる。

明け方、トイレに行きたくなって、また目が覚めた。
月は、―――もうない。

唇の皮がビリビリに破れて、喉が焼ける様に熱い。
むっくりと起き上がり、パソコンを立ち上げる。

―――40℃。
脳が沸騰しているのか、何なのか、幻覚みたいな映像がヨギッては、消える。
そして、今、40℃で、作文を書く。
平熱で読んでは、いけない。
この作文は、必ず発熱時に読まねばならない。
世界初の実験的「発熱文学」だ。

んなわけないだろ(-_-メ)
早く布団に入って、寝るべし。

震えながら布団にもぐりこむと、窓の外では、いつも通りに、太陽が顔を出した。


(おわり)