ココナッツダンス 

 さっき、2歳児と一緒に教育テレビを見ていたら、
フィリピンの「ココナッツダンス」というのを、やっていた。

 ガタイのいい男がふたり、ココナッツの殻を、
体じゅうにひもでくくりつけ、陽気な曲に合わせて、
両手に持ったココナッツの殻で、
体のあちこちの殻を叩く。
 3拍子で、コンカンカン、コンカンカン、
と、リズムを刻みながら、
飛んだり回ったりして、踊っている。

 ココナッツの殻は、胸元にふたつ、
背中にふたつ、腰にふたつ、腿にふたつ、
それぞれ、対になって付いている。
 男たちは、自分の両腕を、たこ踊りのこどく、
バランバランに動かして、瞬時にココナッツの場所に当て、
リズムもまったくズレずに、踊っている。

 一見、単純で、原始的な踊りに見えるが、
これは、大変な経験と、感覚が必要なのだ。
 パッ、と、腕を背中に回して、
そのジャストミートする場所に、
ココナッツの殻がくっ付いていなければならないのだ。
 それが、背中だけじゃない。

 腰、腿、背中、胸、と、
物凄く速いリズムに乗って、
全然、左右対称な動きでなくて、
しかも、ニッコニコ笑いながら、
クルックル回りながら、
全部、ジャストミートなのだ。

「すっげ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 私は、ひざに抱いた2歳児を放り出して、
テレビの画面に自分の顔面を貼り付けて見入ってしまった。

 が、すごいのは、ここからだった。

 徐々にリズムは速くなり、
ふたりのダンサーは、互いにアイコンタクトするやいなや、
今度は、コンカンカン、コンカンカン、と、
相手の体の殻にまで守備範囲を広げていくではないか!

 コンカンカン、コンカンカン、

リズムは、これだけ。顔は、ニッカニカ。

でも体は・・・・・・

右手:【背中】【腰】【相手の胸】【腿】【背中】【相手の背中】
左手:【腿】【相手の背中】【胸】【背中】【相手の腰】【腰】
(同時に)

なのだ!

 さあ、ぜひあなたも実際、この動きをやってみて欲しい。
できるだろうか。
 物凄く速いリズムで、
ニッカニカの笑顔で、
回りながら、「へ〜イ」とか合いの手入れながら! 

 コンカンカン、コンカンカン、

と、踊りは続く。
 クンズホグレツ、男たちは、全ての殻にヒットさせる。

 平日のうららかな小春日和の教育テレビで、
こんな凄いものを目撃するとは、思いもしなかった。

 フィリピン、グレイト!
 ココナッツダンス、パーフェクト!

 これは、絶対にオリンピックの種目にすべきだ!

 いや、待て!

 次の瞬間、私は、熱い涙を禁じえなかった。

 これは、「コミュニケーション理論」であるのであるのである! 

 自分の殻に当てるのは、自分の経験や感覚で、
カンッ、と正確に当てることは、可能だろう。
 しかし、踊り、飛び、動き回る相手の体や、手についた殻に、
瞬時にカンッ、と当てるのは、
ニッカニカしながらも、
相手と毎回心を合わせなくては、不可能な技なのだ。

 コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、

 楽しげに、嬉しげに、
しかし、相手の「ツボ」を瞬時に一撃、ハイッ、
は〜、ニカニカニカ、

 コンカンカン、コンカンカン、

そして、自分の「ツボ」を相手に差出し、ハイッ、
は〜、ニカニカニカ、
 
 コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン。

そして、続く。

 叩き、叩かれ、差出し、差し出され、
 
 コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン。

 ・・・・・・・嗚呼、これが愛なんだね!!

愛でなくて、何なんだね!!

 私は、今朝、一方的に子供たちを怒鳴りつけ、
機関銃のように夫にものを言い、
自分の持ったココナッツの殻を、
ぐるんぐるんと滅茶苦茶に振り回して、
家族に対して、凄まじきコミュニケーションをとってしまった。
 相手のツボも殻も見ちゃいない。
目をつぶったまま、
「ふんがーーーーーーー!!」
とか、言いながら、
リズムも笑顔もダンスもなく、
「ふんがーーーーーーー!!」
と、相手のボディに、アタック三昧だ。

こりゃまったく、
美しくない!
楽しくない!
嬉しくない!
面白くない!!

 さあ、踊ろう、ココナッツダンス。

コンカンカン、コンカンカン、

 目を合わせ、ニカニカと、

コンカンカン、コンカンカン、

 腰をひねり、タコのごとく、

コンカンカン、コンカンカン、

 踊りましょう、歌いましょう、

コンカンカン、コンカンカン、

 クンズホグレツ、踊って生きて行きましょう!

 さあ、一緒に、

コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、
コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、
コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン、コンカンカン・・・・・・

 2002.02.06 作:あかじそ