学校行事シリーズ


その1 「やらすなっ」

1年生の学年活動の、母子スポーツ大会とやらに出席した。

保護者が体育館後方に控えていると、入口から一年生が入場してきた。

大人しく、みんな一列に並んで歩いてくる中、
ひとりの小柄な男の子が、
突然、<欽ちゃん走り>で、
誰も居ない体育館前方へ
斜めにひょーい、ひょーい、ひょーい、と駆け抜けた。

「誰だよ、あのバカ」

と、思ってよく見たら、うちの次男坊だった。

私は、息子が入場してきたら手を振ろうとして、
手のひらをパーにして胸元にスタンバっていたが、
「あのバカ」が体育館のど真ん中で、こちらに向かって、

「あい〜〜〜〜〜ん」

と、やったものだから、私もついついつられて、振るはずだった腕の、ひじがクイッ、と上に上がり、

「あい〜〜〜〜〜〜ん」

と、返してしまった。

 周囲の冷たい目。
「あの親にしてあの子あり」という目。

 バカ! 次男坊のバカバカバカ!

おかあちゃんは、生粋のドリフ育ちなんだよ!
おかあちゃんの細胞のひとつひとつには、
ドリフがみっちりと組み込まれているんだっ。

やめてよっ。
、やらすなって。
体が反応しちゃうんだから。

保護者解散までの時間が、そりゃあ長かったこと!



その2 「ドンチョウから手」

子供の小学校の、音楽発表会に行った。
1年生が、トトロのテーマ曲「さんぽ」を、手話のダンス付きで歌った。

 伴奏は、やはり1年生の女の子で、
舞台の隅でピアノを弾いていたのだが、
指揮を見る余裕のない、その子の伴奏は、
速くなったり遅くなったり、テンポが幾分怪しかった。

すると、ピアノの後ろのドンチョウの蔭から、
グレーのセーターを着た女性の腕が出てきて、
トン、トン、トン、
と、ピアノの端をやさしく叩き、
リズムを刻んであげていた。

その手は、確かなリズムを穏やかに刻み、
狂いかけた女の子のリズムを、そっと整えた。

 手の主は、結局最後まで顔を見せなかった。

しかし、伴奏を終えた女の子が、
ドンチョウの蔭からふいに、その手の主に声を掛けられ、
振り返り、
本当に穏やかに微笑み、
うなづいたのを見た時は、こちらまで笑顔が湧いて出た。

「育てる」って、こういうことなんだろうな、と思った。

1年生の演奏が終わると、何人もの母親が、
時計を見ながら体育館の出口に駆け出していった。

「ったく、主婦はすぐ子供の用事で休むから。だからダメなんだっ!」

 と、職場の上司に怒られ、いやみを言われながらも、
仕事を中抜けして子供の発表会を見に来る母親たち。 

母親を見つけて、アッと、顔を輝かせる子供に、
彼女達は、職場の制服姿で手を振る。

ドンチョウから、手。

怒られても中抜け。

みんなが淡々と発表を見ている中、
私はひとり、泣いているのを見られないようにするのに必死だった。