心に生えた雑草は

子供の頃、夏、庭の草むしりを手伝っていたら、
母に言われた。
 
「雑草は、根っこから抜かなきゃダメよ」
「見えているところだけむしっても、根が残ってたら、またすぐ生えてくる」

 自分の背たけの半分ほどにも伸びた雑草を、
子供の力で、根こそぎ引き抜くのは、
大変な力が必要だった。
 いつも、上だけ、ブチブチ切れていた。

 軍手して、麦藁帽子かぶって、タオルを首にひっかけて、
汗だくだくで、根っこを引き抜く母は、かっこよかった。

 半日かかって、腰を伸ばすと、雑草は山盛り引き抜かれ、
庭には、真っ黒で綺麗な土が広々と現れた。

 大人になって、結婚して、子供を産んで、
一直線に生きてきたけれど、
ふと気がつけば、心にいっぱい、雑草が生えていた。

 何でもかんでも、人のせいにする草。
 すぐに怒って、怒鳴り散らす草。
 思ったことをすぐ口に出して、人を傷つける草。
 「やさしくしてよやさしくしてよ」と、大騒ぎする草。
 そのくせ、人には優しくない草。

 昔受けた中傷、
 ぶたれて育った子供時代、
 クズのように扱われたあの職場。
 いまだに残ってる、それらの深い傷。
 そんなのも、みんな心に生えた、雑草なのだ。

 気がつくと、慌てて引き抜くけれど、
根っこは、いつも抜けていないのだ。
 根っこがあると、すぐまた伸びる。
 すぐまた心がざわつくのだ。

 力が要るんだ。
根こそぎ抜くのは。
 
 軍手して、麦藁帽子かぶって、タオルを首にひっかけて、
汗だくだくで、根っこを引き抜こう。
 炎天下、それは、確かに大変だけど、
心に、
あの少し湿った綺麗な真っ黒の土が一面に現れるまで、
抜こう。
根っこから、抜こう。

 腰を伸ばして見回して、
「ああ、さっぱりした」
と、タオルで汗をぬぐう爽快を、味わうために。

 2002.02.12 作:あかじそ