「パパは酔っ払い」


 私は、小学1年生。
 明日は、学校で大事なマラソン大会があるから、
いつもより早く布団に入り、
ぐっすり眠っていたんだ。
すると、突然、ぴゅ―っ、と風が吹いて、物凄く寒くなった。
 私は、くしゃみをし、かすむ目をなんとか開くと、
パパが臭い息をプハー、っと私に掛けて、

「パパのおともらちが来たから、こっちおいれ〜〜〜〜〜〜」

と、私の布団を思いっきり剥がした。

 ぶるぶる震えながら1階に降りて行くと、
いつもいつも夜中に酔っぱらってやって来る、
パパのお友達「べん」が来ていた。

「げっ、べん!」

 私は、うんざりしながら、また布団へと引き返した。
すると、べろべろに酔っぱらったパパは、また布団を剥がして、

「っっっち来い、っつーのが、聞こえらいろかあ! ぐらあ!」

と、でかいでかい声で叫ぶ。
 ネグリジェ姿のママが、
「やめなさいよお」
と、言って、パパは、首根っこを掴まれて下に降りていった。

 私は、すぐにまた、眠りについた。

・・・・・・と、また突然寒くなって、目を開けると、
目の前に「べん」のでかい顔があった。
「ぺん」は、掛け布団を剥がされて縮こまった私の体をじろじろ眺め、
マッカッカッカな顔で、

「リカちゃ〜ん、おっちくなったに〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

と、これまた馬鹿でかい声で言った。
 私が無視していると、

「なによ〜、リカちん、つれないな〜、べんちゃんとあちょんであちょんで〜」

と、汚い顔をぐいぐい近づけてくる。
 なおも無視していると、

「あ、ちょうだ! なんかおもちゃ買ったげるじょ〜〜〜。
なになになになになに? なにがいい?」

と、しつこく顔を寄せてくる。

「あっ、ちょうだ! バービーちゃん買ったげるっ! バービー、バービー。
チュカート履いてりゅのね〜〜」

 私は、人形遊びなんて、大っ嫌いなんだ。
それに何だ、その馬鹿にした口調は!
 
「かね!」

 私は、ぶっきらぼうに言った。
なるべく大人っぽいことを言ってやろうと思った。

「かねくれよ!」

 「べん」は、ハッとして、後ずさりして行った。

その晩は、そのまま眠ってしまったが、
翌朝、「べん」が帰って、
酔いの覚めた父に、いやって程殴られた。

「俺は、こんなに恥をかいたのは初めてだ! 
勉に金くれ、って言ったんだってなあ!!」

 私は、その日、たんこぶだらけでマラソン大会に出た。
そして、その夜、疲れてぐっすり眠っていると、
また、バサッ、と布団が剥がされた。

「パパのおともらちが来たじょ〜〜〜、起きて挨拶ひまひょーーーう!」

 私は、「またかよ」と思いながらも下に降りると、
台所で、パジャマ姿のママが葱を刻んでいた。
ママは、私に、
(こいつら適当にあしらって、寝ちゃいな!)
と、目で合図すると、

「こんなものしかなくて〜〜〜〜〜〜」

と、ニコニコしながらたくさんの料理をテーブルに並べていた。

 そのテーブルの前には、「べん」ではなく、
校長先生みたいな感じのおじさんが
にこにこしながら座っていた。

「いやあ、奥さん、すみません。こんな夜中に」

 「べん」とはえらい違いだ。
きっと会社の社長さんかなんかだろう。
 「べん」の時は、料理を出したらさっさと寝てしまったママも、
ソファーに座って、一緒に何か話をしていた。

 そのおじさんは、
「まあ、しゃかいのしすてむてきには・・・・・・」
などと、パパのお友達とは思えぬ立派な言葉をすらすらと話した。
 私も、ママも、すっかりこのおじさんが気に入り、パパなどは、

「リカにも先生が家庭訪問にくるだろう? 
これもそんなようなもんなんだぞ〜〜〜お」

と、ご満悦だった。

 翌朝、そのおじさんが帰った後、ママがパパに
「で、あの人誰?」
と、聞いたら、パパは、
「パチンコ屋で隣に座った人」
と、言った。
 名前も知らないという。

 次の週、朝、ママが起きたら、
知らないおじちゃんが同じ布団に寝ていたと言う。
それも、パパの酔っ払い友達だった。
 ママは、「いきたここちがしない」と言った。

 パパの酔っ払い!
私は、酔っ払いが大嫌い!

 でもなんで?

 私も大人になったら、お酒大好きになっちゃった。
顔だって、パパにそっくり。
 
 神様は、私になにを試そうとしている、っていうのかしら?
それが知りたいのね!

            (おわり)