登場人物     夫  「北の国から」の田中邦衛のような人
            妻            久本雅美のような人


    エピソード    「無視すんなよ」「してねーよ」の巻


<妻  トイレの便器に顔を突っ込むようにして、便器ブラシで便を突っついてい。>
<妻  真っ青な顔でトイレから飛び出し、本棚の中から「家庭の医学」を取り出し、震えながらページをめくる。>
<ふと顔を上げ、かすかにつぶやく>

妻  「うそ」

<翌朝>
妻 「下痢してさぁ、そしたら、トイレの水面に、真っ黒の見たこともない液体がね、油みたいにぷかぷか浮いてたの。
    これってさぁ、やばいんじゃないかなあ。それもね、うんちのたびにだよ。ガンかなあ。ねえ。」
夫 「(子供に向かって)ああ、こらこら、早く支度しろって」
妻 「ここ20年、便秘と下痢、ずっと繰り返してるし。やばいよね、絶対」
夫 「(子供に向かって)だからぁ、靴下履いてさあ」
妻 「ストレスたまってるし、ガンになるとしたら、絶対大腸だよ、あたしの場合」
夫 「(子供に向かって)ほらそこっ、けんかしないの」
妻 「ねえ、聞いてる?」
夫 「うんうん」
妻 「どうしよう」
夫 「市が無料でやってる検診は?」
妻 「来年になんないと対象年齢にならない。どうしようかなあ」
夫 「(子供に向かって)名札つけたのか」
妻 「ねええええええええっっっっっっっっっ」
夫 「?」
妻 「無視すんなよって」
夫 「?」
妻 「大事な話してんのに」
夫 「朝は忙しいから無理だって」
妻 「だってあんた、毎晩、みんなが寝静まってから帰ってくるんだから、朝話すし かないでしょ」
夫 「.......」
妻 「死ぬかもしれないんだよ」
夫 「はー」
妻 「はー、って何よ、はーって」
夫 「(子供に向かって)歯磨きもな」
妻 「ちょっとおおおおおおおおお」
夫 「?」
妻 「あんたねえ、あたしが死んだら全部あんたから受けたストレスが原因だから ねっっっ」
夫 「死ぬとかいうなよぉ。縁起でもない」
妻 「だから、死なない為にはどうしたらいいのか相談してんのに。無視して、放置 して、死んだらあーあ、でおわりかいっっ」
夫 「はー」
妻 「はー、で話を全て終わらせるなっつの。何でいつもいつもあたしの話を聞き流 すのよ」
夫 「......」
妻 「くだらない話ならともかく、大事な話まで聞き流すのやめてくれる?」
夫 「......」
妻 「せめて話しかけられたら返事くらいしようよ」
夫 「......」
妻 「ねえ」
夫 「......」
妻 「ちよっと」
夫 「......」

<夫、黙って隣の部屋に行く>

妻 「あーあ、また天の岩戸におかくれなすったわ」

<妻、子供に向かって怒鳴る>

妻 「ほらっっっっっっっ、あんたたち支度終わったの」

<子供ら、慌ててテレビの前から飛びのいて、めいめい支度を始める>

妻 「はー、......」


さてさて。どちらが悪いのか、どちらも悪いのか。問題はひとつも解決しないまま、 本日の夫婦の会話はこれにて終了。

母子心中しちゃうひと、よその子殺しちゃうお母さん、そういう人たちの夫婦の会話 も、きっとこんな風だと思うのだが。
もっとちゃんと話そうよ、夫。
夫を責めて責めて、問題点がわからなくなるまで責め まくるのはよそうよ、妻。

夫婦百態、まだまだ続く。