エピソード12
「真夜中の葛藤」


 夫には、情けない癖があった。
眠っている間、無意識に下半身裸になってしまうのだ。
 上半身は、どんなに暑い晩でも、長袖をしっかり着込んでいるのに、
下半身は、一糸まとわぬ男なのである。
 朝、小鳥のさえずりで家族が気持ちよく目覚めると、部屋の真ん中で、
チンチン丸出しのおやじが大の字で眠っているのだ。
 爽やかな朝が台無しだ。
気分が悪い。げんなりだ。

 子供達は、妻に問う。
「お父さん、なんでいつもチンチン出してるの?」と。

「それはね・・・・・・、私のほうが聞きたいのよ」
と、妻は答える。
 そして、頼むからもう、
「犯されたのね、わたし・・・・・・」
みたいな寝姿はやめて欲しい、と心底思う。

 妻は、何度も何度も、夫にやめてくれ、と頼んではみたが、
夫とて、無意識下での行動だから、自分の意志ではどうにもならないらしい。
 やっぱり毎朝、そのこきたないブツが出ていた。

 妻は、本当に、もう、本当に、うんざりしたので、ある晩、寝る前に、夫に詰め寄った。

「今度やったら、完全にキライになるからね」

 すると、夫は、パンツやズボンをしっかりはいて、固い決意で就寝した。
 
 ところが、である。

 妻が深夜の授乳で起きると、何やら夫が布団の上でもぞもぞ動いている。
(ややっ、また脱ぐか?)
と、思いきや、両手でいっぺん降ろしたパンツとズボンを、
思い直したように、また、腰まで引き上げている。
(おっと、理性が働いたぞ!)
 すると、また、夫は、油断したのか、ぬるぬるとズボンを下げる。
(あっ、また脱いだ!)
 妻は、アカンボに乳を吸われながら、体をねじって夫の行動をじっと見ていた。
と、夫は、苦しげに
「ううううう・・・・・・・」
と、うめきながら、ズボンをまた上げだした。
(この男・・・・・・寝ながら葛藤している!)
 妻は、吹きだした。
 その後、15分間に渡り、夫は、ぬるぬる〜んと、ズボンを降ろし、
「ううううう・・・・・・」と、脂汗を流しながら、またズボンを上げ、
また、ぬるぬる〜ん、と降ろし、「ううううう・・・・・・」と、上げていた。

 夫の頭の中では、快楽のフルチンと、「キライにならないで、妻!」という、
重大な葛藤が展開されていたに違いない。

 結局、翌朝、夫のズボンは、夫のひざあたりで中途半端に留まっていた。
子供達に「変なの!」と、突っ込まれ、
妻が自分のその姿を真上から冷たく見下ろしているのに気づくと、
夫は、急いでズボンを引き上げ、
「セーフでしょうか?」
と、真剣に妻に問うた。

「アウトです」

 妻は、無表情に言うと、とっとと階下に降りてしまった。
ひとり、寝室に残された夫は、べったりと嫌な汗をかいていた。
 

 やっちゃったね。かなり頑張ったけど、
やっぱり、やっちゃったみたいだね、夫。
 でも、妻を楽しませたみたいだぞ。
そういう意味では「セーフ」だったね。
 良かったね、夫。良かったのかね? 夫。

 とりあえず、首はつながったみたいだ。
そして、なしくずしにつづく。
今日もまた、なしくずしに、つづいていく。

                      (つづく)

2001.11.1作 あかじそ