夫には、情けない癖があった。
眠っている間、無意識に下半身裸になってしまうのだ。
上半身は、どんなに暑い晩でも、長袖をしっかり着込んでいるのに、
下半身は、一糸まとわぬ男なのである。
朝、小鳥のさえずりで家族が気持ちよく目覚めると、部屋の真ん中で、
チンチン丸出しのおやじが大の字で眠っているのだ。
爽やかな朝が台無しだ。
気分が悪い。げんなりだ。
子供達は、妻に問う。
「お父さん、なんでいつもチンチン出してるの?」と。
「それはね・・・・・・、私のほうが聞きたいのよ」
と、妻は答える。
そして、頼むからもう、
「犯されたのね、わたし・・・・・・」
みたいな寝姿はやめて欲しい、と心底思う。
妻は、何度も何度も、夫にやめてくれ、と頼んではみたが、
夫とて、無意識下での行動だから、自分の意志ではどうにもならないらしい。
やっぱり毎朝、そのこきたないブツが出ていた。
妻は、本当に、もう、本当に、うんざりしたので、ある晩、寝る前に、夫に詰め寄った。
「今度やったら、完全にキライになるからね」
すると、夫は、パンツやズボンをしっかりはいて、固い決意で就寝した。
ところが、である。
妻が深夜の授乳で起きると、何やら夫が布団の上でもぞもぞ動いている。
(ややっ、また脱ぐか?)
と、思いきや、両手でいっぺん降ろしたパンツとズボンを、
思い直したように、また、腰まで引き上げている。
(おっと、理性が働いたぞ!)
すると、また、夫は、油断したのか、ぬるぬるとズボンを下げる。
(あっ、また脱いだ!)
妻は、アカンボに乳を吸われながら、体をねじって夫の行動をじっと見ていた。
と、夫は、苦しげに
「ううううう・・・・・・・」
と、うめきながら、ズボンをまた上げだした。
(この男・・・・・・寝ながら葛藤している!)
妻は、吹きだした。
その後、15分間に渡り、夫は、ぬるぬる〜んと、ズボンを降ろし、
「ううううう・・・・・・」と、脂汗を流しながら、またズボンを上げ、
また、ぬるぬる〜ん、と降ろし、「ううううう・・・・・・」と、上げていた。
夫の頭の中では、快楽のフルチンと、「キライにならないで、妻!」という、
重大な葛藤が展開されていたに違いない。
結局、翌朝、夫のズボンは、夫のひざあたりで中途半端に留まっていた。
子供達に「変なの!」と、突っ込まれ、
妻が自分のその姿を真上から冷たく見下ろしているのに気づくと、
夫は、急いでズボンを引き上げ、
「セーフでしょうか?」
と、真剣に妻に問うた。
「アウトです」
妻は、無表情に言うと、とっとと階下に降りてしまった。
ひとり、寝室に残された夫は、べったりと嫌な汗をかいていた。
やっちゃったね。かなり頑張ったけど、
やっぱり、やっちゃったみたいだね、夫。
でも、妻を楽しませたみたいだぞ。
そういう意味では「セーフ」だったね。
良かったね、夫。良かったのかね? 夫。
とりあえず、首はつながったみたいだ。
そして、なしくずしにつづく。
今日もまた、なしくずしに、つづいていく。
(つづく)
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