エピソード14 「 消化消化でいきましょう 」


 夫は、物知りである。
プチ雑学博士である。
 しかし、俗に言う「オタク」ほどマニアックでもなく、
「コレクター」ほど、コレクションを大切にしない。
 知って、集めて、うふふ、と思って、終わりである。

 だから、いろいろなことを知ってはいるが、
それらに対して、大した考えは持っていない。
 したがって、知識や資料は、夫の中で消化されずに
そのまま彼の頭の中の腸を通り過ぎ、頭の中の大腸の内壁にへばりつき、
莫大な宿便として、彼の頭を埋め尽くしている。
 そんなわけで、妻に、
「あれ、どうなったのよ?」
と、唐突に問われると、頭の中の宿便掃除から始めなければならず、
ひとつの反応を起こすまでに、異常に時間がかかる、というわけだ。
 
 だいたい、夫は、実際の体の消化器系もヨワヨワなのだ。
 子供の頃から歯がボロボロな上に、
馬鹿みたいに口一杯に食べ物を詰め込み、
ろくに噛まずに飲み込んでいるから、胃だってボロボロだ。
 人一倍、ゲップや屁をこき、
もう、超・腸サイアク〜、なのである。

 そんなヤローだから、頭の中の消化器系も、
サイアク〜、なのだ。
 せっかく読んだ大量の本も、知識の丸呑みで消化不良だ。
読んだことによって、彼は、
「ふは〜、食った食った」
とは、思っても、栄養は、彼の頭を素通りなのだ。
 丸呑みされたシラタキやひじきみたいに、
ウンチにそのまま出ておしまい。
 そして、彼は、ちっとも良くならないし、リコウにもならない。
有害な宿便のみが増えていくのみだ。

 妻は、夫を、よく雑学事典がわりに使う。
「老子思想って、どんなんだったっけ?」
とか
「コンバトラーVって、何色だったっけ?」
とか聞くと、夫は、嬉しそうにオタク口調で、物凄く早口で答える。
 妻は、「ほほ〜」と言って、即座にその内容を自分風に解釈し、
自分を改訂していく。
 妻は、消化力は優れているが、記憶力が異常に悪いのだ。
脳の記憶担当部位「海馬」が、イカレテイルのだ。
 あるいは、ヒノエウマ生まれだから、
海馬がヒノエ馬なのかもしれない。
 とにかく、何にも覚えられない。
忘れる以前に、覚えられないのだ。
 その情報の必要な部分のみを、その場で自分に摂り入れて、
あとの部分は、即座に捨ててしまう。
 仮面ライダーチップスの、カードだけ取って、チップスを捨ててしまう、
昔の小学生男子のようだ。
 
 夫婦とは、よくできているもので、
こう考えてみると、まったく相性の悪いこの夫婦も、
夫「資料館」&妻「博士」と思えば、何かしらの研究ができるというものなの
だ。

 さあ、妻は、いつもいつも、情報に飢えている。
何を見ても、その蜜を吸ってみたくなる。
 そして、もうすでに吸い尽くされた感のある「夫」という情報は、
今日も莫大な宿便を抱えて出勤した。

 ああ、二人三脚の「馬鹿博士」に幸あれ!

                      (つづく)


 怒ってないぞ。
いつも夫を怒っているのに、
全然怒っていないぞ、妻。

 怒られない夫は、何だかホントに物足らなさそうだ。
物足らないんだね、夫。
 激しく首を横に降る夫を無視して、
つづく。 

                      (つづく)
2002.02.08作 あかじそ