「急性風水中毒」


 女は、33歳が厄年だというが、ネットで調べてみたら、
年女の今年も厄年だという。
 私は、「信心する」ということに対して、まったく関心がなく、
むしろ、依存心の表れのような気がして、軽蔑さえしていた。
 しかし、いわゆる「前厄」では、子供のおたふく風邪が私にうつって
脳まで菌が回り、髄膜炎を発症し、危うく死ぬところだったし、
「本厄」では、交通事故で右足首の靭帯を痛め、
これまた一歩間違えば死ぬところだった。
 更に、「後厄」の年は、夫が解雇され、同僚のはからいで首がつながったものの、
すぐに会社が潰れた。

 やっと、厄が落ちた、と思いきや、またすぐ厄年だというので、ひっくり返った。

もういやよ!
あんな死と隣り合わせの日々は!


 私は、急きょ、「信仰心ゼロ」を返上し、1月2日の大安に近所の神社にお参りし、
夫と私の厄除けのお守りを買った。

 そういや、夫も今年、かぞえで41歳、前厄なのだった。

 子育てに追われ、必死に働き、中古の日陰がちな家を買い、
子供の喘息は悪化し、金はなく、いつもケチケチ暮らし、
夫は家に居つかず、私はイライラがつのり、
子供も最近荒れている。

 これって、思いっきり嫌な感じ!

 アンケートの謝礼としてもらった図書券で、思いつくまま「風水の本」を買ってみた。

 今までは、
「ケッ、風水風水言ってれば、ワイドショーは視聴率取れるからってさ」
と、馬鹿にしていたが、読んでみて「ハッ」とした。


 玄関、トイレ、水まわりの掃除をこころがけよ。清潔第一。

 換気せよ。気を流せ。

 愚痴を言うな。原因を正せ。

 木をむやみに切るな。根が腐り、土が傷んで悪い気が発生する。

 金はしぶしぶ使うな。使うなら、厄落としと思って、楽しく使え。

 洗濯物は、日に当てて乾燥させよ。日あたり第一。
じめじめは、心と体に悪影響。



・・・・・・って、めちゃくちゃ科学的じゃん!

 私は、悟った。
 「風水」および占い関係などは、「科学」や「哲学」を、
庶民が理解しやすいように「神様」などに結びつけたものだ、と。

 「厄」とは、いわゆる「ストレス」や「有害物質」などの、
心身に悪影響を与えるもの全般を指し、
「ツキ」とは、その逆で「いい感じのもの」を指している。

 東西南北で吉凶を言っているのも、科学的に裏付けされているのだ。

北は、日が当たらず、じめじめしているから清潔に、
そして、明るいインテリアに。
南には、トイレは禁物。(暑さでメタンガスが発生するから)

 その通りにしていれば、家は清潔、心晴れやか、
よって交友関係も順調で、人と一緒にお金も入ってくる。

・・・・・・と、いうものらしい。

 ということは、我が家のように、
 
 子育てに追われ、必死に働き、中古の日陰がちな家を買い、
子供の喘息は悪化し、金はなく、いつもケチケチ暮らし、
夫は家に居つかず、私はイライラがつのり、
子供も最近荒れている。

という、厄の洪水のような家では、風水の言うことを、黙って聞くのが一番だ。
拒否する理由がない。

 部屋の埃を払い、キッチンを磨き、
トイレに這いつくばって雑巾がけし、
玄関のたたきを水で流す。

 掃除で、体全部を使うから、
自然に血流もよくなって、顔色もピンクになる。
さっぱり片付いて、達成感もひたひたと心を洗う。
 私の機嫌も、いつの間にか、よくなっている。

 埃やカビもなくなって、喘息だって軽くなる。
金は、ケチケチ使わず、幸せな気分でスカッと使うから、
また頑張って働こう、という元気も湧いてくる。

 家が片付き、家人の機嫌もよく、うまいメシが出てくれば、
夫も家に居たがり、愛想もよくなる。

 夫婦仲良ければ、子供も安心して暮らすことができて、
朗らかな空気が家庭を満たす。

・・・・・・ってな訳なのだ。

 これを、実の親や、姑かなんかが、
「まあ、台所が汚れていること! 暗い家だわっ」
なんて言った日にゃ、絶対に素直に聞くことはないだろう。
「ふざけんな!」
と、反発して、家庭内は「厄まみれ」のままだろう。
 
「風水様だぞー」
「へへ〜 m(__)m」

で、いいのだ。
それくらいでちょうどいい。

 さて、私は、これから家の中にたまった「不要物」という厄たちを、
ばったばったとゴミ袋に投入する、厄払いの儀式に入る。
 白いTシャツと赤いズボンで、「カジュアル巫女」のできあがり!

 さて〜。
いこうぞよ〜〜〜〜〜〜〜っ!
今年から、我が家は自力でツキまくるのじゃ〜〜〜!


                                        (おわり)
2002.01.16 作:あかじそ