■第一段■
春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明りて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる。
夏は、夜。月の頃は、さらなり。闇もなほ。蛍の多く飛び違ひたる、また、
ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。雨など降るも、をかし。
秋は、夕暮。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の、寝どころへ行くとて、
三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。まいて、雁などの列ねたるが、
いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
冬は、つとめて。雪の降りたるは、いふべきにもあらず。霜のいと白きも。
また、さらでもいと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。
昼になりて、温く緩びもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。 |
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