「 恐怖の老人 」

 父方のおばあちゃんや、母方のおじいちゃん、
夫の母など、長生きしている年寄りに限って、
「あたしゃあ、もうすぐ死ぬだに〜」
的な発言をよくするような気がする。
 年端もいかない孫をつかまえては、
「わしゃあ、お前の結婚式まで生きられるか・・・・・・」
とか、
「次会う時は、葬式でな」
なんて、おさなごを心底怯えさせるような発言をする。

 ―――で、
「そんなことないよ」
と、言われるのを、じいっと待っている。
 そっぽを向いて、ゆらゆら揺れながら待っている。

 それ! やめてよ!

 怖いから! 
 毎回、「そんなことないよ」って言うの、疲れるから!

 年とって、家族の中心じゃなくなって、うすら淋しいのはわかる。
 でも、「死ぬぜ死ぬぜ、もう死ぬぜ」って、脅すのやめて!
 その脅し、怖いだけで、「大事にしよう」とは思えないから。

 で、「死ぬぜ死ぬぜ」って、30年以上言ってるけど、まだ死んでないし、
そんなこと言わなくったって、大切に思っているから、
だから、もうそのセリフは言わないで!
 
 おそらく「おら、もう長くねえ」というのは、
「もっと私を見て!」という意味でしょう。

 年寄りだって愛して欲しい。
 年寄りだから、愛して欲しい。

 愛してるよ。
 それが伝わっていないなら、もっとわかりやすく愛するよ。

 だから、やめてね、「もう会うのは最後かな」と言うのは。

(しその草いきれ) 2002.10.15 作 あかじそ