JUNさん No.22400 キリ版特典
テーマ:桃


しその草いきれ
「桃子さん」



 桃を剥くのは難しい。
桃は結構高いから、自分からはめったに買わない。
 我が家の食卓に上がるのは、大抵もらいものだ。
 めったに買わないから、めったに剥かない。
 だから、剥き方もイマイチよくわからないのだ。

 皮が柔らかくて、手ですーっ、と剥けるものはまだいい。
全部皮を剥いてから、包丁を周りから中央に向かって刺していき、
8等分くらいに切り分けられる。
 残った中央芯部分は、剥いた者の特権で、
台所でじゅるじゅると一足先に賞味させていただく。
 問題は、割と固めの桃だ。
 包丁で皮をむくのだが、
柔らかいのでそっと持ち、くるくる回して剥くと―――
滑る!
 そして、落とす!
 すると、マッ茶ッ茶に痛んでいる。

 傷つきやすいのね、桃子さん・・・・・・。

 柔らかくてみずみずしくて、
甘く切なく、傷つきやすい。

 ある時、雑誌か何かに桃の剥き方特集が載っていて、
それによると、ある桃好きの人のいつもの剥き方は、こうである。
 
@皮のついたまま、包丁を桃の中央に刺し込み、
種に刃を当てて、くるりと、一周させる。
Aふたつに割れた桃を、左右の手のひらで包み、
雑巾を絞るみたいに逆方向にひねる。
B種と、真っ二つの桃との3パーツにパキッ、と分かれる。
C皮を剥いて出来上がり。

 これは面白いと思い、何度もやってみたが、
全然うまくいかない。
 種が身からすんなり離れないから、
いつまでもギュウギュウ実を持って回すことになり、
痛むわ、汁は絞り出てしまうわ、で、全然ダメだった。
 
 そして結局普通にリンゴのごとく剥き、
大量の一番美味しいところ――汁――が、
無残にもポッタンポッタンと私の手を伝って流しの中に落ちてしまう。

 キュートでスイートな桃子さんは、
しかしなかなか気難しい桃子さんなのだ。
 そして何より、あの可愛いルックスとジューシーな味とは
似つかわしくない、グロテスクなデカイ種が中央に居る。

 いい子なんだけど、扱いが難しい女の子―――
いつも会いたいんたけれど、なかなか気高い。
 懐に飛び込んでみれば、
中には、えぐいドクドクはらわたが鎮座している。
だけど可愛い、男の子にもモテル桃子ちゃん―――。

 いたなあ、そんな子。

  
                    (しその草いきれ)200212.17.作あかじそ