子だくさん 「小学生のいる暮らし」


 向学心あふれる小学生が家にひとりいると、
アカデミックな暮らしができるようだ。
 中島みゆきの「地上の星」が、
大人の間だけでなく、子供たちにも流行っているらしく、
誰も彼もがみゆき調のあの節回しで口ずさんでいるが、
向学心まんまんのうちの小学4年生は、

 ♪かっぜっのっなっかっのっすーばるー、

と、さんざっぱら歌った挙げ句、
「すばる」って何!
 と、母親の私に迫ってくる。
 私は思わず谷村新司の♪わーれはーゆく〜、を思いつき、
あのヘアースタイルを思い浮かべて、
次に清水アキラの鼻にセロテープを貼った顔真似を連想し、
どんどん小学生の求める答えから遠ざかっていき、困った。

「そんなときのための百科事典だよ!」

と、人差し指を立てて見せ、
「そうか!」と言って本棚に飛んで行く子供を見てホッとする。

 分厚い百科事典に首を突っ込んで調べていた子供は、やがて
「あった! 【スバル星】と言って、【プレアデス星団】のことだって!」
と、歓声を上げる。
「【ヒアデス星団】とかと一緒におうし座を作ってるんだって! 
冬の星座だよ!」
と、叫んではお目目キラキラだ。

 「砂の中の銀河」や「草原のペガサス」、は、星に関するものだから、
きっと、「街角のヴィーナス」もそうだろう、と言い、
どうやら「うお座」にある星のことだ、ということを調べた。

 何度も、「そうか、そうだったのか!」と、学びの喜びをうたう息子の横
で、
私も静かに(そうだったのか・・・)と、深くうなづいていた。
 普通の大人の暮らしをしていたら、なかなかちゃんと物を調べないし、
わからないことをわかろうとするエネルギーがだんだんなくなっていってしま
うものだ。
 助かる。
 現役の学習者がそばにいると、こりゃいい。

 次にまた、うちの小学4年生は、
祖母からもらったという万歩計を連日ズボンに取り付けて登校し、
「昨日は10800歩、今日は体育があったから15000歩」
と記録をつけている。
 そのうち、
「一歩が50センチだとすると1万歩で5000メートル」
と言い出しので、
「5000メートルは5キロだろ」
と私が言うと、
「それはまだ習ってないけど、5キロってどのくらい?」
と聞いてくる。
 全然見当もつかず、私が口ごもっていると、
「1日1万歩で一年365日だと何キロ歩いたことになるのかなあ」
と、また新しい質問を繰り出してくる。
 
「ほらほら、そんなときのための計算機!」

と、言い、私はまた難を逃れた。
 計算しながら4年生は、
「僕は何年で地球を一周できるんだろう」
と、叫んだ。

「ほらほら、それは百科事典!」

 私も叫んだ。
 私は全然ものを知らない。
 しかし、私も小学生並みに知りたがりのところがある。

 子供がもたもたしているので、私が本棚から百科事典を取り出し、
目次を開く。
 子供の頃は、もっとすばやく調べられたのに、
その同じ百科事典の目次がかすんでよく見えない。
 ひどい乱視だ。また度が進んだのかもしれない。

「あった、地球の全周!」
 
 先に子供の方が見つけ、そのページを開くと、
全周は39500キロメートル、半径は6290キロメートル、とある。
 うちの子は、一日平均約15000歩歩くと言うので、
365掛けると一年で5475000歩歩き、約2737キロ歩くことになる。
 39500割る2737でおよそ14、地球を一周歩くのに14年以上かかる。

「14年〜〜〜!」
 小学4年生にとって14年は、経験のない年月で、
自分が24歳になるなんてことは全然想像もつかないらしく、
この答えは、彼には不満足だったらしい。

「じゃあ、半径で計算してみよう」
と、私が言い、6290割る2737をすると、約2.2。
「すごいよ、2年ちょっとで地球の真ん中に着くってさ」
と私が大声をあげると、息子は、
「地球の真ん中って、マグマがあって行けなくない?」
と、非常に冷めた口調だ。
「だいたい、何で地球にもぐらなくちゃいけないのよ」
と、興味はすでに次のことに移っているようだった。

「あっそ」

 私は、ため息をつきながら本棚に百科事典を戻し、
そしてまた、自分の14年後とは・・・・・・、などとふと考えては、またため
息をついた。

 そんなこんなで、毎日子供の自主的な自由研究に、
子供以上に胸を躍らせているわけだ。
 「小学生のいる暮らし」は、そんなわけで、悪くない。
 楽しい。

 と、思いながら掃除機をかけていたら、
今度は小2と幼稚園児のふたりの息子が、
♪すっなっのっなっかっのっ銀歯〜〜〜、
と歌ってはゲハゲハ笑っている。
 何百回も何千回も、いつまでも飽きずに、
♪すっなっのっなっかっのっ銀歯〜〜〜、
と歌い、何度も何度も、ゲハゲハゲハゲハ笑っている。
♪かっぜっのっなっかっのっ金歯〜〜〜、
とか、
♪そっうっげっんっのっ入れ〜歯〜、
とか、だんだんしょうもなくなってきて、
でも、ますますゲハゲハ。 


 ああ、これも小学生・・・・・・。
 すぐ替え歌にしちゃうんだよ。しかもくっだらねえの!
 で、ひっくり返っていつまでも笑ってる。

 ま、いいか。
ヤツラも14年後にはもう大人。
 彼らの楽しいオスガキ時代の渦中にいる母親役の私だ。
 いい味出して、名脇役といきましょうや。

           
             (了)

     

子だくさん 2003.2.11.作あかじそ