しその草いきれ 「君たかりたもうことなかれ」
突然だが、あなたは無数の虫にたかられたことはあるだろうか?
私は、何度も何度もある。
ホンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッとに虫が
だいっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ嫌いなのに、
なんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっどもあるのだ。
幼稚園児の頃、カマキリの卵の上に手をついてしまい、
むちっ、
と、手のひらに嫌な柔らかさを感じた後、
ちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょり、
と、1センチほどのちっちゃなちっちゃな子カマキリが
何百匹も何千匹も何万匹も、
私の腕に物凄い勢いで上ってきたのだ。
はらってもはらってもはらってもはらっても、
細かい子カマキリが、
ちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょりちょり、
と、どんどん顔めがけて我先にと競って上ってくるのだ。
それからというもの、
私はあのカマキリの三角顔も太い腹も、
ばちばち音を立てて飛ぶ羽も羽音も、
だいっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ嫌いになった。
虫自体がだいっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ嫌いに
なった。
しかし、虫は私のことが大好きらしい。
次男を産んだ年は、猛暑だった。
当時住んでいた団地で、夜中、
私は生まれたばかりの次男に添い寝して母乳をやっていた。
すると、どこからともなく、
かささささささささささささささささささささささささささささささささ、
という小さな音が無数に聞こえてくる。
「そういえば毎晩、この音が聞こえていたっけ」
と、真っ暗な部屋で耳を澄ますと、
その音は、どうやら私の枕元全体から聞こえてくるようだった。
私の頭のまわりで、そのかさささ音はぐるぐるロンドを踊っていた。
ハッとして急いで電気を点けると、
なんと、私と次男の枕元だけ黒い。
真っ白のシーツを敷いてあるはずなのに、
枕元だけ真っ黒なのだ。
目の悪い私は、
「んんっ?」
と言いながらシーツに顔を近づけていき、
そして次男の顔もだんだん黒くなっていのに気がついた。
「えっ」
「ええええええええっ!」
「ええええええええええええええええええっ!!!」
「ギヤア
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!!」
それはなんとちっちゃな子ゴキブリの群れであった。
猛暑の団地で、ゴキブリは大発生し、
甘い母乳の匂いにわしゃわしゃわしゃわしゃたかってきたのだった。
生後間もないアカンボと私の顔や胸や首筋や髪の間に、
何千匹何万匹、いやいや、何億匹という子ゴキブリが毎晩毎晩たかっていたのだ!
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」
私は頭を掻き毟って叫んだ。
夜中の団地に濁音の悲鳴がいつまでも響いた。
頭皮がかゆい!
頭皮全体にさぶいぼが立つ。
顔の下半分にボチボチが一瞬でできる。
首周りに湿疹が・・・・・・これまた一瞬で生える。
シーツの上では、生まれたてのアカンボが
むにゃむにゃむにゃ、と口を動かし、
その周りをうじゃうじゃうじゃ、とゴキが回る。
「イーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
それからなんと3ヶ月間、冬になるまでゴキは毎晩現れた。
私は完全にノイローゼになった。
バルサン焚いてもホウ酸団子何十個と仕掛けても効果ゼロ。
死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った!
まだまだあるのだ。
虫虫虫の話が。
でも、もうやめていいですか?
まじで気分悪くなってきました・・・・・・うー。
(了)
(しその草いきれ) 2003.4.29.あかじそ作