イン・マイ・マザーテーマ★4人の子供が主人公の、冒険活劇


ピンク色の宇宙の片隅で、いくつかの意識がことばを交わし合っていた。

(ミーから行くよ)
(いいよ)
(でも、すこし怖いよ)
(がんばって)
(怖いよ)
(大丈夫。今度こそ、ママに会えるよ)
(うん・・・。あっ、もう、時間だ! 行くね!)
(さようなら!)
(さようなら!)

小さな星が流れた。
そして、声もなく、切ない意識の悲鳴が響いた。

(ママ! ママ! ママ!)

星は、肌色のクッションに勢いよく飛び込んだ。
クッションは、暖かく、柔らかく、眠たくなるほど、安心なところだった。
うとうととしていると、突然、たくさんの流星群が迫って来て、
あっという間に、そのうちの一つが、ミーに入って来た。
その星は、ミーに話しかけて来た。

(いっしょになろう!)

ミーは、うなづいて、その星と手をつないだ。
9ヵ月後、僕は、ママから生まれた。
怖くて仕方ないのに、誰かが、物凄く大きな声で泣いている。
怖い! と 、思えば思うほど、その泣き声は大きく、激しくなった。
僕は、僕の声さえも怖い、僕になりたての僕だった・・・・・・。
でも、大丈夫。平気だよ。
続いておいで! 待ってるからね!

ピンクの宇宙で、また一つ星が流れ、死に、流れ、死んだ。
怖がる何百もの意識の中で、ひとつの勇気ある意識が前に出た。

(ミーが行くよ)
(怖くないの?)
(怖いよ)
(あの子は、ママに会えたけど、でも)
(そのあと、また何人も死んだよ)
(ミーは死なないよ)
(なんでわかるの?)
(ママが呼んでるのが、聞こえるの)
(ミーには聞こえないよ)
(ミーにもだよ)
(ミーだけに、聞こえるんだ。ミーを呼んでいるんだ)
(さよならだね)
(さよなら!)
(さようなら!)

一つの小さな星が流れた。
肌色のクッションで、たくさんの星の子達が待っていた。
ミーがその中に飛びこむと、ひとつの星がミーの中にいた。

(いいよなっ!)

ミーは、ぐぐっとうなづき、腕をその子と組んだ。
そして、9ヵ月後、僕は生まれた。
やっぱり、大丈夫だった!
そんな気がしたんだ!
さあ、みんな、おいで!

ピンクの宇宙では、意識がふたつ、寄り添って何かを相談していた。

(あんたが先に行きなさいよ)
(でも、ユーの順番だよ)
(ミーは、あんたの後に行く)
(なんで?)
(ミーが先に行ったら、多分、あんたは外に出られない)
(死んじゃうって事?)
(そうよ)
(なんでわかるの?)
(わかるのよ)
(でも、ミーは怖いよ)
(平気よ。きっとママのところへ行ける)
(ほんと?)
(あんた次第よ)
(うん・・・・・・じゃあ、先行くよ)
(がんばれ)
(さようなら!)
(さようなら!)

星が流れた。
肌色のクッションが見えて来た。
と、突然、横から流星の一団が突っ込んで来て、ミーは、その渦中に飲みこまれた。
気が付いたら、星が一つ、ミーの肩を抱いていた。

(よろしくぅっ!)

ミーがびっくりしていると、星はニヤッ、と笑った。
9ヵ月後、僕は生まれた。
先に行ったあの子と、あの子が、くりくりの瞳で、僕を見詰めている。

(ほら。だいじょぶだっただろう?)

ピンクの宇宙では、一つの意識が、後の意識たちに手を振って、別れを告げていた。

(みんなの事は忘れない)

9ヵ月後、私は生まれた。
先に行ったあの子と、あの子が、私の頭をなでて笑った。

(ようこそ、こっちへ!)

先に行かせた、あの子も、私の手を恐る恐る握る。

(待ってたよ。ありがとう。
やっぱり、ユーが先に来てたら、僕はこっちに呼んでもらえなかったんだって。
女の子が生まれたら「打ち止め」なんだって)

私は、にっこり笑って見せた。
私たちは、神様に選ばれて、ママとパパに呼ばれたの。
死んでいったあの子たちのためにも、
生まれないあの子たちのためにも、
生きていくという仕事を、ずっとやっていこうね。

生まれたての女の赤ちゃんを囲んで、3人の男の子が、
じっと黙って見詰めあっていた。
劇的な再会を祝しあっていた。

その光景を、遠くから眺める父親と母親。

また、その光景を眺める空の星々。
ずっと前から、ずっとずっと続いてきた、
そして、これからも、ずっとずっと続いていく、不思議な冒険の物語。

(おわり)