話の駄菓子屋 「おこさまぬけみちガイド」

 その1 男子小学生諸君へ

 君は、いわゆる「サッカー少年」かな?
 それとも「リトルリーグ」で日曜ごとに野球かな?
 スポーツが好きならわかると思うけど、
 スポーツは、ことばで説明できないような
「やったーっ!」っていう気持ちよさがあるよね。
 痛かったり、苦しかったりして、
泣きたくなるのをぐっと我慢してやり抜いたとき、
一生懸命練習した成果が出たとき、
気持ちがスカッとするものだよね。

 ところで、君たちの中に、
ホントはあんまり気が進まないのに
親に無理やりスポーツをやらされている少年はいないか?
 好きでもないのに、
どやされてストレスためながらがんばるのって、
本当は、そんなのちっともスポーツじゃないと思うよ。
 思い当たるふしのある子は、
一刻も早くやめちゃいな!
 無理は心と体に良くないぞ。
 お父さんやお母さんは、
「一度始めたことは最後までやり抜け」
とか、
「この根性なし!」
とか、キーキーいうかもしれないけれど、
気にするな!
 親の趣味を押し付けられて
困っている子供たちよ!
みんなでいっせーのせで本音を語ろうぜ。
 そして、もっともっと自分が好きなことを探して、
そっちに夢中になった方がいいと思うよ。

 それから、毎日毎日、
あっちこっち塾や習い事を掛け持ちしている子供たち!
 もちろんどれも自分が通いたくて通っているとは思うけれど、
もし、そうじゃないものがあったら、
ずくやめちゃいな。
 たまには近所の友だちと駆けずり回って遊びなよ。
 つかみ合いのケンカしたり、
傷つけたり傷つけられたり、
反省して謝ったり、仲間はずれにされたり、
仲間はずれになってる友だちを仲間に入れてやったり
許せないアイツを許したりしてごらんよ。
 ちっちゃなケンカなんかは
いちいちママに言いつけないでさ、
ママにクレームつけてもらって解決するんじゃなくてさ、
男なら自分で自分の道を開けよ。

 もし、学校でいじめられたら、
「この世の終わりだ」
なんて絶望的な気持ちになんてなるなよ。
 いじめなんて、大昔からずっとあったんだ。
 君のお父さんもお母さんも、
おじいちゃんもおばあちゃんも、
そのまたおじいちゃんもおばあちゃんも、
みんないじめたりいじめられたりして、
それでも生きてきたんだよ。
 だから、いじめはこの世の終わりではなくて、
この世の始まりなんだ。
 世の中には、本当にびっくりするくらいに
いろいろな種類の人がいて、
心から悪い人というのも中にはいる。
 でも、ほとんどの人は、
イライラしている普通の人や、
不安で不安で八つ当たりしたくなっている普通の人、
思うように行かなくて凶暴な気持ちになっいる普通の人や、
誰かにいじめられているから自分も誰かをいじめてやろう、
と思っている普通の人なんだ。

 いじめる人は、
自分の心の苦しさを、
誰かを痛めつけてさっぱりしちゃおうとしている
かわいそうな人たちだよ。
 楽しい気分転換ができない、頭の悪い人だ。

 君は、ちっとも悪くない。
 君は、ちっとも悩む必要がない。
 君に向けられた暴力は、
ひどいことばの数々は、
ひとつも正当なものではないんだ。
 正しくないんだ。
 
 君の体を傷つける暴力は犯罪だから、
先生や親や保健室の先生や
警察やカウンセラーに告発して、 
相手をこらしめてもらってください。

 君の心を傷付けることばの暴力を吐く人は、
やっぱりそれも大騒ぎして、
みんなにことばの暴力の存在を明らかにしてください。
 今、君が勇気を持って騒がなければ、
他の誰かもまた、
これからどんどん傷つけられてしまうでしょう。
 
 いやなことを言われたら、
そのことばは右耳から左耳へ通り抜けさせて、
君の頭や心の中までは通さないでいいんだよ。
 いや、通してはいけないんだ。

 簡単に言えば、
「全然気にしなくていい」
ということなんだけど、
でも、どうしたって気にしちゃうよね。
 人のことばを素直に聞く君のことだもの。
 いいことばも悪いことばも、全部信じて、
どんどん心にしみこませてしまうんだよね。
 それはいい子である証拠だから、それでいいんだよ。

 ただ、そのままで行くと
きっとつらくなってしまう時がくると思うんだ。
 だから今から少しづつ、
自分の身を守る裏技を覚えよう。
 
 はだしで外を走り回ると、
気持ちはいいけどガラスの破片を踏んだりして危ないよね。
 だから、心にも靴を履こう。
 突然君の足の裏を襲う、
さびた釘やガラスの破片や犬のウンチから
君の大事な足を守ろう。
 心を守ろう。
 
 君をやさしく包む愛のことばや、
 君を成長させる厳しいことばだけを
君の心に通すんだ。
 そして、君をただいたずらに傷つけるだけの
コンピュータウイルスみたいな有害なことばは
君の心の靴で蹴飛ばしてしまおう。
 
 君は、それを、堂々と行うことを許されているんだよ。
 君は、安全に、心安らかに暮らしていく権利があるんだ。
 
 その権利をちゃんと使って、
楽しく小学生時代を生きてね。
 
 それから、たくさん本を読んでね。
 わからないことがわかったときや、
知らなかったことを「知らなかったんだ」と気づくとき、
人はズギューンと、経験値を上げるからね。
 本は、人生の必須アイテムだよ。

 そうそう。
 人生ほど面白いロールプレイングゲームはないんだよ。
 今は弱っちいキャラかもしれないけれど、
どんどんいろんな経験積んで、本物の勇者になろうぜ。
 
 何か困ったことがあったら、
また聞きに来てね。
 「おこさまぬけみちガイド」では、
いつでも子供の人生のぬけみちをナビしちゃうからね。
 
  
                         (つづく)



           (話の駄菓子屋)2003.6.24.あかじそ作