「 不機嫌の連鎖 」

 以前、「神経質な人の特性」について書いた本を読んで、
へえ、と大いに納得したことがあった。
 神経質な人は、同じ空間に不機嫌な人がいることに
耐えられないらしい。
 自分がひとりで不機嫌になっている分には関係ないのだが、
自分以外の人が不機嫌だったり、
テンションが低かったりするのを見ると、
とにかく物凄く不安になり、そして、不快になり、
自分も不機嫌になってしまう、というのだ。

 そこにひとりでも不機嫌な人がいることで、
「自分の存在が許されないものなのではないか」
という強い不安を感じてしまうらしい。
 
 この本の著者は、
子供の頃、父親がいつも不機嫌で、
自分の性格やしぐさ、顔や体の特徴のひとつひとつにまで
難癖をつけられ、いじめたおされたのだという。
 
 その体験談を読むにつけ、
「幼い子供に対してなんという虐待だ!」
と腹を立てていたものだが、
今になって、ふと、
その父親の気持ちもちょっとわかるような気がしてきている。

 うちの長男もそろそろ反抗期で、
わけも無くイライラしたり不機嫌だったりするのだが、
私はそういう長男を見るのがとても嫌なのだ。
 だから、そういう態度をやめてもらおうとして、
「イライラしてんじゃないわよ!」
「キーキーキーキーしないでよね!」
と、気が付くと怒ってしまっているのだ。
 長男以上にイライラしている自分に気づいたときには
時すでに遅く、エンジンのかかった私の怒りは火を噴き、
関係の無い次男や三男にまでインネンをつけては、
ギャーギャー騒いで親子喧嘩にまで発展してしまう。

 そこで、あ、と思うのだ。

 あの本の、父親に小突き回されていた著者は、
子供の頃、きっと父親が怖くて、おどおどしていたのだ。
 その姿を見た父親は、
「こいつは俺と一緒にいることが不愉快そうだ」
と感じ、何とか自分にいい顔をして欲しくて
その子をいじっていじって、いじめまくっていたのではないか?

 反抗期の子を持つ親。
 むっつりと口を利かない夫を持つ妻。
 キーキーとヒスを起こしている妻をもてあます夫。

 もしかして、彼らは、
相手の機嫌を何とかしてもらいたくて、
「何だテメーこのヤロー!」
と怒ってしまってはいまいか?

 相手の不機嫌を直して欲しいあまりに、
それ以上に不機嫌になってしまうあなた!

その不機嫌の連鎖を止めるのはあなたです!

相手の不機嫌やローテンションを、
怒って暴れて逆切れして、何とか回復させようとするのは、
愚策なのです。逆効果なのです。
 
 そういうときは、いや、そういうときこそ、
機嫌よく振舞うことで不機嫌の連鎖は断ち切れるのです!

 と、誰かに説教をするふりをして、
自分を戒めている私。
 そういえば私の歩いてきた道のりには、
いつもいつも不機嫌の輪がぐるんぐるん回っていたなあ。
 なあんだ、あいつもこいつも、ただの神経質か。

 私がダメなのかと思っていたよ。


                      (了)
(しその草いきれ) 2003.07.22. あかじそ作