「 金魚 」 |
先日、街のまつりで、 私がちょっと子供たちから目を離したすきに 彼らに金魚すくいをされてしまった。 私ひとりで生き物(息子たち四人と夫)の世話は、 すでに手一杯なので、 金魚すくいは我が家ではご法度だったのに、だ。 子供たちがすくった金魚は計9匹。 どれもみな小さい赤い金魚だったが、 中でも一匹は極端に小さく、 一匹は頭とヒレに黒い模様が入っていた。 まつりから帰ってきて、 とりあえずバケツに入れて玄関先に置いておいたのだが、 何だか狭くて可愛そうだ。 突然水道水にぶち込まれて へろへろになっている姿も見るに耐えない。 まつりで子供に散々ぐずられ、 私の体力はすでに限界点に達していたのだが、 さらに力を振り絞って、 自転車の後ろに3歳児を乗せて 近所のホームセンターまで水槽やポンプ、 えさなどを買いに走った。 金魚のお家セット、とやらに全部パックされていたので、 それを買って薄暗い道を帰る。 家についてから、セットについていた 「金魚の飼い方」 というリーフレットに顔を貼り付けて熟読する。 「ハイポ」というカルキ抜きの薬を水道水に入れて5分。 水槽にその水を張り、砂利を敷き、ポンプをセットする。 そこですぐに金魚を放り込んではいけない。 金魚をビニール袋に入れて30分ほど水温に慣らし、 その後、ゆっくりと水槽内に放してやる。 狭いところでキューキューいっていた金魚たちは、 もぞもぞと水槽内に広がって行き、 やがて後から思い出して追加された水草に隠れたり ポンプの泡と戯れたり、 結構彼らも新しい環境に順応していきつつあった。 説明書によると、 「水槽に移した当日は、環境が変わりすぎたので えさを与えてもあまり食べず、 残ったえさは水を汚してしまう」とやらで、 子供たちが楽しみにしていた初えさやりは翌日となった。 翌朝、早速子供らは餌やりをしたいと騒いだ。 私は、セットの中から 「食べやすいフレーク状のえさ」 というのを取り出し、子供らの手のひらに平等に乗せた。 子供らは競ってそれを水面に落とし、 金魚たちが水面に口を出してパクパク食べるのを 歓声を上げて見ていた。 一匹だけ餌に目もくれずに、 水草の陰で微動だにしない小さい金魚がいた。 子供らはすでに彼に 「ちびっち」という名前を付けていたのだが、 ちびっちは明らかに死期が迫っている雰囲気を かもし出しているのだった。 数日後、朝起きたら8匹しかいなかった。 いやな予感がして、ポンプをチラッと動かしてみたら、 やはり、その裏側に吸い込まれて息絶えていた。 ちびっちと名づけられて数日間、 我が家の注目を集めていた一番小さい金魚は、 子供らによって庭の土に埋められたが、 その他の金魚はいたって元気であった。 が、セットについていたえさがなくなり、 新たに買ってきたえさは、 うちの金魚たちの口には大きすぎて食べずらそうだった。 いつもどおり朝晩えさをやるものの、 みなあまりうまく食べられず、 日に日に元気のない金魚が増えてきた。 黒い模様の入った金魚は、 三歳の四男の所有らしく、 名前も「つよしのすけ」と命名されていたのだが、 元気だった彼も弱ってきている。 ここのところ涼しくなってきて、 水温も下がってきたのだろう。 「金魚の飼い方」にも、 秋からは水槽にヒーターを入れるようにと 書いてあった。 そのころ私の体調もあまりすぐれず、 布団の中でうーうー言っていたのだが、 夕方思い立って、 また自転車でホームセンターに走った。 四男の名前のついた金魚が死んでしまうのが 物凄く嫌だったのだ。 「小さい金魚でも食べやすいフレーク状のえさ」 と、ミニヒーター、水温計の計3点を購入し、 すっかり暗くなった道を帰る。 子供らの見守る中、 ゴム手袋をはめた私の手によって ヒーターと水温計はセッティングされ、 厳かに新しいえさが水面に振り入れられた。 今まで死んだように水草の中にうずくまっていた金魚たちは、 生ぬるくなってきた水に喜び、 また、久しぶりにちゃんと口に入るサイズの餌を与えられて 大慌てで食事にありついていた。 やれやれ、これで第二のちびっちを出さずに済みそうだ。 ところが、だ。 一日経つと、前にも増して 金魚たちが水草に潜り込んで動かなくなってしまった。 水温を見ると、26度。 昨日までせいぜい17度だったのが 突然10度以上上がってしまって みな湯だってしまっているらしい。 温暖化もはなはだしい。 これまた慌ててヒーターのスイッチを切り、 水温計をこまめにチェックして、 20度を割ったらスイッチを入れるようにした。 やがて金魚たちは元気を取り戻し、 餌もよく食べ、意味もなくやたらと動き回るようになった。 狂ってしまったのではないか、 と思えるほど大暴れなのがちょっと気になるのだが、 とりあえず8匹は元気に暮らしている。 ポンプの水流をわけもなく逆流しまくって遊んでいるヤツ、 壁に映った自分の姿を追い掛け回すヤツ、 ガッツキで、いつも長いウンチをぶら下げて泳いでいるヤツ、 要領の悪いヤツ、 意地悪なヤツ、 ぼんやりしてるヤツ。 よく見ると、いろんなヤツがいるわい。 死んでしまったちびっち。 これ以上死なせないように奔走した私。 えさをやるのを楽しみにし、 えさを食べる姿を嬉々として眺め、 水槽に顔を寄せて話しかけたり、 ただいつまでも黙って見つめていたり。 それにしても、なぜ私は 特に好きでもない金魚を必死に世話し、 その泳ぐ姿をいつまでも眺め、 金魚を眺める子供らをまた、 いつまでも眺めているのだろう。 わけがわからない。 (了) |
(しその草いきれ) 2003.11.11 あかじそ作 |