キリ番特典
みーちゃさん 29300番
―――お題「宿題」―――
「 宿題をしてください 」

 子供の頃私は、
親から「勉強しなさい」と
一度も言われたことがないほど
ちゃんと自主的に勉強していた。
 その勤勉な学習態度が
成績や人生経験において
まったく反映されないのが残念なのだが、
とにかく、勉強は好きだった。

 ひとりで机に向かって
日記を書いたり、マンガを描いたりする
その延長線上に
「勉強」というゲームがあった。

 「知らないこと」が「知ってること」に、
「できないこと」が「できること」になるのが
単純に面白かった。

 だから、私にとっては
勉強はゲームだったのだ。

 しかし、私の子どもたちにとっては
そうではないらしい。

 最近学校は完全週休二日制になり、
土曜日の分のスケジュールを
平日に無理やり組み込んでいるので
勉強がとてもきついという。

 今まで授業中にやっていた
「前回の復習をする時間」が少なくなるため、
結果、宿題として家で復習しないと
授業についてこられなくなる、
という弊害が起きているのだ。

 うちの子供たちも連日、
山のように宿題を持ち帰ってくる。
 彼らがそんな大事な宿題を
さくさくと終わらせてくれれば、
私の日々の苦労はなくなるだろう。
 しかし、そうはいかない。

 真面目な小1の三男は、
ランドセルを所定の棚に戻すやいなや、
洗面所で手洗い・うがいを済ませて、
連絡帳と手紙の類を私に渡す。
 そして、すぐに国語の音読を始め、
終わると、
音読カードと保護者印を持って来て私に渡す。
 その他にも、漢字練習や計算カードも
きっちりやっている。
 私はただ、
洗い物をしたり夕飯の仕込みをしながら
にこやかにそれを見守ればいい。

 しかし、その他の子供たちはそうはいかない。

 小5の長男は、帰ってくるなり
「岡山くんとパンダ公園で遊んでくる」
と一方的に言い残し、
すばやくどこかへ行ってしまう。
 夕方の「家に帰りましょう」の放送から
だいぶ経ち、辺りも真っ暗になってから
「お母さん遅くなってごめんなさいー、ひー」
と、びくびくしながら帰ってきて、
そして、すぐに夕飯を食べ、
その後、マンガを描き始める。

 「あれ、宿題はないの?」
と私が聞くと、
夢中になっていることを中断されて
物凄く不機嫌になってしまう。
 「後でやる」
と言い、そして、
後になっても全然やらない。
 以前本屋で長男にせがまれて買った
国語と算数のドリルも、
当然まったく手付かずになっている。

 そして、翌朝、
みんなが登校の支度をしている居間で
ひんひんべそをかきながら
宿題をしている。

 「やりたいことだけやって、
やりたくないことは後回し。
 そして隙さえあればバッくれる」

 そういう生活態度や物事に向かう姿勢は
夫にそっくりだ。
 似るんじゃねえ、そんなのは。

 似ているといえば、
私の父(大問題児!)にそっくりな小3の次男は、
宿題に関しては、
それはいろいろな逸話を持っている。

 昨年度は、二学期の初めごろ、突然、
「ぼく、しゅくだいはしないから」
と宣言し、結局最後まで一切宿題はしなかった。

 先生にしかられても
「ぼくがしないと決めたからしないんだ」
と言って、まるで聞く耳を持たなかった。
 先生に連絡帳や電話で
再三注意されていた私は、
連日次男と取っ組み合いの喧嘩をしてまで
宿題をやらせようとしたが、
次男の気持ちが荒れるばかりで
まったく効果がなかった。

 今年の次男の担任は、とても厳しい先生で、
宿題をしなければ
教室に居ても立ってもいられないようなムードらしく、
しぶしぶやっている。

 やってはいるが、
そのやり方がいかにもまずい。

 漢字練習は、
先に全部ふりがなや送り仮名だけ書き込み、
漢字自体も、先に全部「へん」だけ書いてから
後で「つくり」をだだだだだーっ、と書くなど、
思いっきりやっつけ仕事なのだ。
 文字を覚えるという目的を一切無視し、
「これ書かねえとうるせえから書く」
という態度だ。

 算数の計算問題にしても、
12問の筆算練習を、
先に12問全部の一の位を計算してから
次にまとめて十の位に移るのだ。
 だから、一問一問についての
繰り上がりだの繰り下がりだのは
すっかり忘れてしまっていて、
まるっきり計算になっていない。

 それでもヤツは、
全部答えが埋まれば「クリア」だと思っている。

 好きなマンガ描きや図画工作では
夢中になって取り組んでいるのに、
興味のないことに関しては、
まったく見向きもしない。

 先日の個人面談では、担任に
「いやあ・・・彼には参ってます」
と延々言われ続け、
私の方からは
「あの子、学習障害でしょうか」
と聞くと、
「彼の場合、あれが【性格】だから余計にタチ悪いんですよ」
と、笑われた。
 私も笑った。
 もう、お互いに困り果てて、
笑うしかなかった。
 仕方ないよな。
 だって、次男にそっくりな私の父も、
いい年こいて同じ調子なんだもの。
 父が退職するときに
職場の仲間に書いてもらった寄せ書きには、

「最後の一年くらい仕事しろ」

って書いてあったんだもの・・・・・・。


 「宿題しなさい」とか「勉強しなさい」とか、
「部屋を片付けなさい」とか、
「喧嘩をするな」とか、
そういうことを言わないで済むのなら、
親としてどんなに心穏やかに暮らしていけるだろう。

 まるでのび太のママや
ドリフのコントの長介かーちゃんみたいに
年がら年中怒鳴ってる自分に
とっとてもとっても疲れてしまうのだ。

 まあ、宿題をしなくても部屋が散らかっていても、
死にはしないし、何とか生きていけるけれど、
でも、やっといた方が絶対いいんだってば。

 私も子供の頃は、
親の小言をいっさいがっさい聞き流し、
今となっては何について叱られていたのか
まったく覚えていないくらいだから、
たぶんこの悩みは不毛だろう。

 あーあ。
                    
                        (了)

   (しその草いきれ) 2003.12.23. あかじそ作