夫のやっている零細パソコンスクールで、
新しい生徒さんが同時に数人やってくることになり、
夫ひとりでは手が足りなくなりそうなので、
急きょ、私がヘルプに入ることになってしまった。
あるひとりの生徒さんを担当することになり、
当日その人に教えるところだけ、
テキストをスポット暗記して
ドキドキしながら職場に向かった。
実はその日の午後、
私はマイクロソフト・オフィス・スペシャリストの
2002年バージョン「エクセル」を受験することになっており、
ここ数ヶ月はエクセルばかり1日9時間やっていて、
「頭がエクセル」になっていた。
パソコン画面に格子がひかれていて
常に行列番号が書いてないと落ち着かない脳になっていた。
ところが、私が担当しなくてはならない人は、
ワードの結構難しいところをやっているのだ。
私は試験前日だというのに
試験勉強そっちのけでワードのテキストを一部分を
一夜漬けしたのだ。
全然自信がないが、
夫は「できるできる」と簡単に言う。
それなら、と調子に乗って引き受けたものの、
現場に来たら話が違った。
突然夫は全然違う生徒さんを指して
「あちらを教えてください」
と言う。
(ぉぃ!)
私は小さく目で(無理だ)と合図したが、
夫は目も合わせない。
どういうことだ!
まじか!
「エクセルですから、よろしくっ」
そう言われておずおずとそのおばさんのそばに行くと、
おばちゃんはひとり、ぶつぶつ言いながら
白紙のエクセルのセルに
赤く色を塗ったり削除してみたり、
「一体あんたは何がしたいんだ!」
という意味不明なことを繰り返している。
私は、この人に何を教えたらいいのだ。
そのうち、彼女は、
一度塗りつぶしたセルを白紙にしようとして、
片っ端から削除しまくった。
が、削除したそばから
セルの線がまだらに消えてしまい、
哀れ、
エクセルの画面が
ハゲハゲなワードのような画面になってしまった。
嗚呼、私はどうしたら?!
そこで、私は勇気を出して聞いてみた。
「あのう・・・何を作るのでしょうか」
すると、おばちゃんはその質問には答えず、
「キレイになんないなあ、こりゃ」
と独り言を言っている。
「あ、それなら新規作成しましょう」
と、私が左上のマークを指さすと、
「あ、そうだそうだ」
と言って、既存のファイルを開けてしまった。
「あ、そこでなくてこのマークをクリックです」
と言うと、
「あ、そうだそうだ」
と言って、ファイル(F)をクリックし、
ビロビロ〜ッと伸びてしまったモノを
「うーむ」
とうなりながら数分間ただ見ている。
こ、これは手ごわい・・・・・・。
初心者に教えることほど難しいことはない、
と常々夫が言っていたが、本当にこれはきついぞ。
「ここをクリックしてください」
と言っても、
そこをクリックするのに数分かかる、
という凄い現実。
新しいファイルが何とか開くと、
また彼女は黙り込んで何やら列の幅を伸ばしたり
縮めたりしてうなっている。
「ここが郵便番号・・・・・・ここが住所・・・・・・」
ということばが小さく聞こえたので、
この人が名簿を作ろうとしていることがわかった。
私が何か言ってもテンで無視で、
「均等割付は・・・・・・」
とつぶやいているので、
「【書式】から【セル】を選んで・・・・・」
と私が言うと、
「あ、そうだそうだ」
と言って何とか書式設定を済ませた。
「住所が長くなっちゃって
2行になっちゃったときはどうすんだっけ?」
おばちゃんは初めて心を開いて
私にそう聞いてきた。
あ、それ知ってる・・・・・・
MOUS問題集でやった・・・・・・
模擬試験でもやったはず・・・・・・
でも・・・・・・どうやるんだっけっ?????
知ってるはずなのに、頭の中が真っ白だった。
そこへ夫がすっと近づいてきて、
「【書式】から【セル】を選択して、
【折り返して全体を表示する】のところをクリックしてくださいね」
と言って、颯爽と向こうの生徒さんのところへと向かった。
「夫、ナイス・フォロー!」
が、そんなこんなでおばちゃんの名簿作りも
終盤に近づいてきたとき、
おばちゃんはおもむろにマイ・フロッピーを取り出し、
今作った名簿を取り込もうとし始めた。
(やべっ、フロッピー関係、全然わかんないんだよ(>_<))
私はさりげなく「せんせっ!」と夫を呼び、交代してもらった。
すると、夫は、
「では今度はこちらを見てあげてください」
とワードの人を指した。
「あ、昨日予習したところだ」
私はテキストを汗ばむ手でプルプル震えながら開き、
「では、日付の設定から、今日の日付を入れてみましょう」
と言った。
今度は、いい調子だ。
んが!
その生徒さんのノートパソコンの時計が
時刻合わせしていなかったため、
テキストに書いてある通りにやっても、
「本日の日付」が出てきやしない。
「どうして今日の日付が出ないの」
えへへへ・・・・あははは・・・・
私は山を張って丸暗記しただけなので、
ただただ頭が真っ白で、もう笑うしかなかった。
「あとでセンセに設定してもらいまひょほ・・・・・」
もう、語尾も弱弱だった。
そこへ持ってきて、
エクセルのファイルからグラフをコピーしようとしたら、
エクセルが開かない。
完全にフリーズしてしまった私は
とりあえずテキストを見せながら口で説明してみたが、
相手は全然わかっていない。
ま、そりゃそうだ。
「センセ〜〜〜〜〜(ToT)/」
へろへろの裏声で私は夫を呼んだが、
夫は、今日入ったばかりの新人さんの指導に
かかりきりになっているので、
まったく手が離せない。
「すみません、ちょっと待っててくださいね・・・・・・」
私は行ったり来たりうろうろおろおろしていると、
夫がおもむろにやってきて、
チョッチョッチョッと何かをいじり、
時刻を直し、エクセルを開いてグラフのコピーを教えてから
また新人さんの元へと行った。
「はい、では、続きをやりましょうね」
と私が言うと、
「はい」
と言うなり、その人はどこか変なところをクリックして
画面が全部消えてしまった。
しーーーーん。
「これ、どうなってんの?」
って、
私に聞くな。
どうなってんだか、私が聞きたいわ。
「すびばせん〜〜〜〜〜(>_<)
わかりません〜〜〜〜〜(>_<)」
私がぺこぺこすると、
そのノートパソコンのおばちゃんは、
「いいのよ、いいのよ。
私は前から奥さんが来るの聞いてたから
覚悟できてたから。
心配だったんだけど、まあダイジョブよ」
(全然フォローになってねえ〜〜〜(ToT))
「・・・・・・でも、あなたのご主人は教え方うまいし、
何度聞いても怒らないっていう雰囲気があるし、
実際何度同じこと聞いても親切に教えてくれるから、
私ら中高年は先生を頼りにしているのよ。
私は、すごく尊敬してるわよ。」
「いやあ・・・そうなんですかあ?
うちでは子供にもこき使われているんですけどねえ」
教室が笑いに包まれた。
雑談だったら販売経験うん十年なので自信がある。
が、ザックバランな雑談が終わり、
テキストに戻った途端にまた、
私のハートのセルが【アクティブ】でなくなってしまうのだった。
(無理だぁ・・・・・・まだ無理だってばよぅ・・・・・・)
何度も何度も時計を見てしまった。
講義はあと30分で終わる。
で、あと1時間半で私ゃ数十年ぶりの受験なのだっ!
えらいダメージだあ〜〜〜。
この教室にとっても、私がいるとダメージだあ〜〜〜。
タスケティ〜〜〜〜〜(T_T)
「隅っこに立ってて、
ちょっとしたフォローだけやってくれればいい」って、
夫よ、今朝そう言ってたじゃねえか〜〜〜!
話が違う!
違いまくりじゃねえか〜〜〜!
「こっちの方をお願いします」 って!!!
お願いしちゃだめでしょう!
願われても困るっつーの!
自分もできないこと、どうして教えられるのよ!
小さい声で
「時々雑談して」
なんてアドバイスしてくるけど、
それどころではないわいっ!
私という旧式コンピューターは、
もうとっくにフリーズしまくっとりますよ!
ああ・・・・・・
無理無理無理無理無理無理無理無理
無理無理無理無理無理無理無理無理
無理無理無理無理無理無理無理無理
無理ですってまだ〜〜〜〜〜〜〜〜!
少なくとも、変なところいじっちゃって
突然画面が消えちゃったり戻っちゃったりする
恐ろしき地雷のような超初心者を教えるのは、
修行中の身には荷が重過ぎますぜ〜(ToT)
げっそりして教室を後にし、
試験場で旧MOUSのエクセル2002バージョンを受験し、
無事1000点満点中939点で合格。
ああ・・・・・・
自分で操作するのはできても、
人に教えるのって難しいなあ!
ひどく疲れた1日だった。
で、これから私はどれほど勉強すれば、
あの地雷畑のような初心者たちに
ニコニコと淡々と、
そして、きっちりとパソコンを教えることができるのだろう!!
もうちょっと時間をください!
私に勉強させてください。
夫は「実地に出て覚えろ」と言うけれど、
小心者の私にはキツイっす。
命、縮むっす。
ちぢむっすぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(;O;)
(了)
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