「まい・おやぢ」  テーマ★憎いけど大好き


私の子供時代、まだ、児童虐待などと騒がれていない時代に、
私は、あのおっさんに、ギタンギタンにやられていた。
気分次第で、頭を踏まれ、裸で外に締め出され、冷たい水を掛けられ、
ちゃぶ台をひっくり返され、熱い味噌汁を浴び、言葉の暴力に耐えていた。
今だったら、絶対、お縄になるだろう。
しかし、 あの頃は、「躾の厳しいお宅」で、済まされていた。

あまり連日、そういう事が続くと、子供は、
「自分は、生まれてこない方がよかったのでは?」
と、無意識に、自分の存在を疑ってしまう。
愛を疑い、 自分を疑い、全てを疑う。
疑う、というのは、つらい事で、世の中全てが敵で、また、
この自分さえ、自分を殺ろうとしている気がしてくる。

さて、 おやぢよ。

「食わせてやっているんだぞ」と、私の髪をつかんで引くおやぢよ。
私が、お前にメシを食わせる時代が来たら、
同じセリフで、同じ仕打ちをしてやるぞ、と、髪の隙間から
お前を睨んだっけ。

そして、おふくろよ。

そういうおやぢに、150センチのキャシャな体で、
回し跳び蹴リする、おふくろよ。

あんたは、ゴム鞠みたいなフットワークで、私と弟を守った。
どんなに殴られようと、倍返しで、おやぢをへこませた。
元・不良。強かった。

そんなおふくろでも、ある晩、子供部屋のベッドの横に、布団を運んで来て、
ハナをすすりながら寝た事があった。
世界一強いはずのおふくろが、被った布団の中で、ひとりの弱い女になっていた。

おやぢ!!

わがままで、気分屋で、乱暴で、
優柔不断で、「気にしぃ」で、傷つきやすい、おやぢよ。

私は、お前とウリフタツの次男を産んだ時から、
全てに合点がいった。
お前の「つくり」がわかった。

おやぢ!!

お前を一番もてあましているのは、ズバリ! お前自身だ!

おふくろも、私も、おやぢの取り扱い法は、心得た。
「おやぢ」というステージを、既にクリアした。

おやぢ! マイ・おやぢよ!

甘えん坊で、暴れん坊で、そして、速攻反省する男よ。

おふくろを好きで好きでたまらない男。
おふくろを横取りした子供たちが、憎くて憎くてたまらなかった男。

最後にもう一つ、言っておこう。
私と弟は、お前の子供だ。
敵でない。
お前からおふくろを奪いはしないから、
安心して「父親」をやってほしい。

私の子供たちの「ジイ」である前に、私の父である事が認められたなら、
呼ばせてもらうつもりだ。

「お父さん」と。


(おわり)