「 外食 」

 我が家は男児四人を育てている。
 夫は仕事が忙しく、基本的に家にはいつもいない。
 休日は年に数回で、
ほとんど帰省の日程に使われる。
 夫婦で子供たちをどこかへ連れて行く、
ということはめったにない。

 まだ一番上が小6だから、
男児四人といっても、まだそんなに食費はかからない。
 外食さえしなければ。

 経済的な理由だけでなく、
とにかくみんなで一斉にどこかに行くと、
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒ぐし
喧嘩をするしで物凄く大変なのだ。
 せっかく親が家計をやりくりをして
外食に連れて行っても、
店ではうるさくて肩身が狭いわ、
バタバタしていて落ち着かないわで、
大出費した割には
悪い方へと気分転換してしまう。

 よって、よっぽどのことがないと外食および店屋物はなし。

 どんなに体調が悪くても、遠出しても、
何が何でも365日私が食事を作っている。
 たまに物凄くしんどくて
ご飯が作れないときもあるが、
作れなくても、でも、作る。
 無理を押してヒーヒー泣きながら作っている。

 ちょっとパンでも買って来て食べようと思うときもあるが、
全員の腹を満たすためには、
大量のパンやおかずを買わなければならないので、
後で非情なるやりくりをしなければならなくなる。
 それがつらいから、
やはり無理をしてでも必ず食事を作る。

 私は食いしん坊だし、
食事作り自体は、苦ではない。
 ただ、ここ十数年、
一日も休みがないのは非常につらい。

 しかも、スパゲッティーやハンバーグなど、
子供の好きそうな洋食の一品物は
うちの子たちは全然食べてくれない。
 基本的に和食しか食べないので、
朝昼晩のおかずを考えるのも大変で、
一汁三菜×3のエンドレスは、本当につらい。
 インスタント物は私の体が受け付けないので、
自業自得で、やっぱりエブリデイ自炊だ。

 長い休みなどは、毎日の昼ご飯の算段が、
ほんっっっっっっっっっっっっとうにキツイ。
 「昼飯は麺類で勘弁してよね」
とお願いして何とか自由時間をもらっているが、
 そうでもしないと、
私は朝から晩まで台所に立ちっぱなしになってしまう。

 一体今は何時代だ?
という位、飯炊きと洗濯に
人生のほとんどの時間を費やしている。

 そんな私のつらさを知ってか知らでか、
先日、夫が珍しく家族を外食に連れ出してくれた。

 近所のとんこつラーメンの店だ。

 そこは2年前に開店して以来、
連日行列ができている店だったが、
うちの家族はみな、横目で見ながら
通り過ぎるだけだった。

 その晩は大雨が降っていたので
並ばずに入れたのだが、
小さな店で、6人家族が座れるテーブルがなかったため、
みんなでずらずらとカウンターに並んで座った。

 「大盛りのチャーシュー麺と、ギョーザと、煮卵ふたつと・・・・・・」

と、ほざく次男を無視してやり過ごし、
ラーメン5人前を注文する。
 私は風邪の治りかけで、
食欲がいまひとつだったため、
4歳の四男と一緒に一杯の麺を食べることにした。

 ところが、
四男は、小さな子供お椀に麺を入れるそばから
一瞬で全部平らげ、
おかわりおかわりと騒ぐ。
 更に、一口食べるたびに

「おいちーっ! おとうちゃんありがとーっ! ぼくうれちいよーっ!」

 と叫ぶので、終始店長のお兄さんや客たちが
二ッコニコで私たちに大注目している。
 非常に食べずらい状況な上、
長男次男は、柔らかいチャーシューや半熟煮卵に
ヒーヒー泣きながら感動しているし、
三男は話しかけても返事してくれないほど
頭真っ白状態でひたすら食べている。

 そんなにっ?

 君たち、そんなに感激してしまうのっ?

 そのラーメンの味は、たぶん、「普通」だった。
 しかし、我が子たちの外食に抱く憧れが
その一杯のラーメンに付加価値を与えているのだろう。

 結露びっしりのガラスのドアを出て、
店から土砂降りの外に出た。
 みんな自分の傘を差しながら口々に

「お父さんありがとう!」
「お父さん、おいしかった!」

 と、瞳を輝かせている。

 雨の中、子供たちは家に着くまでずっと、
自分たちは幸せだと興奮して言い合っていた。

 今どき、こんな子供がいるんだろうか。

 ただ親がビンボーで、
たまにしか外食できないだけなのに、
しょっちゅうファミレスに行く子供たちより
幸せそうなのはなぜなんだろう。

 私はその次の食事からまた
エンドレスのおさんどん生活に戻った。

 しかし、前よりも少し、
幸せな家事ができている。

 ただ子供たちが幸せそうなだけで、
幸せになっている自分がいる。

 今どき、こんな簡単な人たちって、
いるんだろうか。

 豊かさって何なんだろうか。

                        
           (了)

   (しその草いきれ) 2004.4.6. あかじそ作