いろんなママをやってみた。
第一子が生まれた頃は、育児書片手にマニュアルママ。
公園デビューに悩み、
アトピー発症に悩み、
家事育児に一生懸命で、
頑張ってた。
第二子が生まれて、
手がかかりすぎる次男と気難しい長男を両手に抱えて、
必死だった。
必死、必死、
ただただ、生きること、生かすことに命がけだった。
あまりに寝てなくて、
あまりに孤独で、
子をぶった。
夫をぶった。
大混乱していた。
第三子は、重症アトピーで、
皮膚のない子の子育てに呆然としていた。
一方、まだ号泣をして絡み付いてくる長男次男。
病弱で、神経質で、全然寝ない男児三人。
夫の勤めは忙しく、休みなし。
夫に当たったところで、夫も疲れ果てていて、無反応。
階下の老夫婦に連日「子供がうるさい」と
無言電話を30回以上掛けられて、
完全にノイローゼ。
親は、「お前が生んだんだからお前の責任だ」と責める。
夫は、口うるさい妻から逃げる。
子供は大勢でいつもいつも号泣している。
私は、もういつ子を殺しても夫や親を殺しても
おかしくない精神状態だった。
階下のいやがらせにも、もう限界で、
田舎の古い一戸建てに引っ越した。
夫は都会の会社に通い続けていたが、
今にも過労死しそうな状態だったので
家の近所の会社に転職してもらった。
家を買って貯金もなくなったので、
私も働くことにした。
長男を幼稚園に、
下ふたりを託児所に預けて、
自転車でヤクルトを売りまわった。
何をやっても頑張りすぎるタチなので、
子供が泣こうがわめこうが、
多少具合が悪かろうが、
無理矢理預けて必死で働いた。
家の中は埃だらけ、布団は敷きっぱなし、
仕事が終わったら子供に菓子を食べさせて
ひとり、居間で倒れて眠っていた。
お金持ちではないが、
普通の暮らしはできていた。
でも、子供の喘息は悪化したし、
疲れて夫とも話さなくなったし、
忙しすぎて、家族など後回しだった。
何のために勤めに出たのか、
完全に見失っていた。
私は、働いたお金を貯めて、
自分の車を現金一括で買った。
「自分だって普通の一人前の人間なんだ」と
思い直したかった。
しかし、買ったとたんに、仕事中に車に轢かれ、
大怪我をして仕事をやめた。
その後すぐ、第四子を懐妊し、
四男を生んだ。
父が定年退職したので、老後の世話をするから、と、
両親を近所に呼び寄せた。
その直後、夫の会社が倒産。
両親に子供を預けて、時給のいい葬儀屋でバイト。
霊感が強いせいで悪霊にたたられながらも
必死で働く。
夫も次の仕事に就いたが、
自営業で、まだまだ収入も不安定。
頼みの母も子守で疲れて倒れ、
私も仕事を断念。
しばらくまた専業主婦をしていたが、
同年代の友達が第一線で仕事をしていたり、
子育てに一段落して再就職していく中、
収入を得ていない自分が歯がゆく、
いろいろな仕事に就いてみたが、
子供がいつも誰かしら病気だし、
病児を預けるところも見当たらなくて、
結局、不本意ながら専業主婦に戻っていた。
何か始めると、必ず自分以外の原因で、道を絶たれた。
何を始めても、必ず挫折がついてきた。
私は、あきらめに支配され、
家事に対して、以前ほどちゃんとできなくなってしまった。
家事育児を、下働きとしか思えなくなっていた。
勤めと家事で忙しく、疲れてイライラしていた時期は、
子供が荒れていたが、
今度は無気力になった私が荒れてしまって、
子供も再び荒れてきた。
兄弟喧嘩。
親子喧嘩。
夫婦喧嘩。
なんでこんな風になってしまったのか。
いつからこういうレールに乗ってしまったのか。
私は、誰かを世話するばかりの下働き。
子育てが終わったら、きっと今度は介護。
私の趣味ってなんだっけ。
私の楽しみってなんだっけ。
つまんない人生。
つまんない人間。
つまんない世の中。
荒れていた。
世の中は、私には不可能なことばかり。
私は、土に埋もれたまま腐っていく新芽だ。
荒れていた。
自分も人も、大嫌いだった。
しかしなぜか、
気分が落ちるだけ落ちると、
必ず底があり、
その底にバウンドして、
私の気分は上向きになった。
いいじゃん。
今は、夫に堂々と食わせてもらおうよ。
私は毎日家の仕事をちゃんとやってる。
子供だって育ててる。
前半の人生は、夫に食わせてもらいましょう。
ニコニコ笑って、家の中を朗らかにする、という、
一番大事な仕事をしましょう。
でも、後半は私が働いて、家族を養うんだ。
年取った親を看ながら、
年取った夫にフォローされながら、
私は、働こう。
自分の好きな道で。
自分の得意なことで。
楽しみながら。
無理をしないで。
家族を最優先で。
私は、地元の商工会議所の、青色申告の説明会に出席した。
この町で、今年起業した人たちが大勢出席していた。
儲からなくてもいい。
私は、どこかの誰かにやとってもらうのではなく、
プチ社長になって、事業をするんだ。
町のタバコ屋のおばあちゃんのように、
死ぬまで小商いをするんだ。
私らしく、好きなことで食ってやる。
私の仕事で、子供や夫や親たちに、
ご飯を食べさせるんだ。
大器晩成。
友達の中で一番生理が遅く始まったのに、
一番いっぱい子供産んだじゃない。
体育のマラソンでは、ずっとビリから二番目だったけど、
後半いきなり力がわいてきて、
いつもごぼう抜きでゴールしてたじゃん。
ペースつかむの遅いだけ。
できないんじゃない、のろいだけ。
元気湧いてきた。
路地の隅っこで迷子になってる自分の姿を、
やっと見つけた。
(了)
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