「 イジメ対策 」

 最近子供の世界にも犯罪や殺人が横行していることで、
うちの子供たちとそういう話をすることがあった。

 「【気になることを一緒に考える会議】をしよう!
 ひとりづつ、今気になってることを言ってみな」

と言うと、出るわ、出るわ、ボロボロ出てきた。

 小6の長男のクラスで、寄ると触ると
「ガリガリ」だの「ホネホネ」だの言ってきて、
給食を運ぶとき落とそうとしてきたり、
壁に長男の頭を叩きつけたりするヤツがいる、
という。
 その子は、校門付近で会った小2の息子に対しても、
「アイツの弟だな」
と言い、息子をいきなり何回転も回し、
コンクリートの地面に叩きつけ、
ひざを怪我させたりしてきた。

 あまりにこれはひどいなと思い、
私は長男の担任に電話して報告した。
 担任は翌日、
「このクラスにイジメが起こっています。
よく考えて行動しなさい」
と、児童たちに言ったらしい。

 で、その後どうだ、と長男に聞くと、
その子本人は何ら変わらないが、
長男自身が関わらないように逃げ回っているという。

 何だか、腑に落ちないが、
とにかく、何かあったらすぐお母さんに言ってみろ、
というと、これまた出てくる出てくる。

 長男経由で。

 と、言うのも、
小6、小4、小2の三人が一緒に風呂に入っているとき、
弟たちが小6の兄にポツリとこぼすらしいのだ。
 母親には言わないが、
兄には何となく言いやすいようだ。

 いつも風呂場から長男の
「それは大声で『やめて!』って叫ばないとだめだよ」
とか、
「先生に言いつけた方がいいよ」
とかいう声が聞こえていたが、
そういう会話を兄弟でしていたとは
知らなかった。

 小4の次男は、
嫌な思いをして憂鬱に思っても、
いまいちイジメられている自覚がなく、
かなりひどい仕打ちを受けていても
「なんかいやだなあ」
なんて言いながら、
嬉々としてその子と遊ぼうとする。
 連日、どこそこに来い、と言われて、
時間通り行くと、いつも彼は来ず、
炎天下、2時間も突っ立って待っている次男も馬鹿なのだ。

 「新しい友達が誘ってくれた」
と、喜び勇んで、
自分の小遣いで菓子を買い、
汗だらだらになりながら、
「新しい友達の」彼を待つ。
 夕方の鐘が鳴って家に帰ってきた次男は、
友達に食べさせたかったチョコレートが、
ドロドロに溶けているのに気付いて泣いた。

 そんなことが何回もあっても、
次男は彼を悪く言わない。

 しかし、その子の名前を聞いて、
長男は飛び上がった。

 「そいつ、ぼくの教科書破いたヤツだ!」

 そうなのだ。
 どうも聞き覚えのある名前だと思ったら、
2年前、長男が下校時に落とした手提げから、
いろいろ取り出して、
音楽の教科書を破り、
リコーダーをボキボキに折ったのが
そいつだったのだ。

 「そいつ、嫌なヤツだな!!」

 私は、母親にあるまじきことを言っているかもしれない。

 「そいつ、性格悪い!!」

 誰だって、機嫌の悪いときもあるし、
理不尽な喧嘩をしてしまうことはあるだろう。
 でも、どう考えても人の大事なものを
わざと叩き壊したりするのは、
子供とはいえ、正気の沙汰とは思えない。

 でも、小2の子供なら、
そういうことをしてしまうこともあるのかもな、と、
そのときは許しておいたが、
4年生にもなって、
連日同級生をつるし上げるようなことをしているのは、 
ちょっとおかしい。

 「もう、そいつと付き合わなくてもいいんじゃないの?」

 私は、またまた、非模範的なことを言ってしまった。

 「性格のいい子と付き合えばいいじゃん!」

 次男は、
「じゃあ、○○クンしかいないけど・・・・・・」
と言う。

 友達は、いっぱい居ればいいってモンじゃないだよ、
と私が言うと、次男はしぶしぶうなずいた。

 かなりマイペースな次男なので、
みんなに馬鹿にされることも多いため、
たまに友達に遊びに誘われると、
嬉しくて舞い上がってしまうのだ。
 利用されても、パシリにされても、
本人が嬉々としている分には、
親がどうこう言えないのかもしれない。
 これからも、いろいろあるかもしれないな、
という予感がした。

 小2の三男に、
「お前はどうなの」
と話を振ると、

「いろいろあるけど」

と言って、多くは語らない。

 入学当初は、毎日、
「だれだれにぶたれた」
とか
「だれだれに物盗られた」
とか、
被害妄想的なことをよく言っていたが、
今は、相当やられてきても
「ちょっとケンカした」
くらいしか言わない。

 先生の話では、
学校では明るくひょうきんで、友達も多く、
勉強も真面目でよくやってる、
ということだし、
ソトヅラがいいから、
間違っても「イジメル」ことはないようだが、
帰宅後に問題あり、だ。

 兄弟に因縁をつけては、
常に泣き喚きながら大暴れしているし、
ちょっと目を離すと
自分の眉毛や髪の毛を抜きまくってしまう。

 神経質で非常にシャイなため、
学校で「いい子」をするのにストレスがたまり、
自分の毛を抜く、という自傷行為をしてしまうのだろう。

 明らかに家ではイライラしている。

 イジメられる、とか何とかよりも
学校生活全体が、真面目な三男にはストレスなのだ。
 自分の過剰適応で自家中毒を起こしている。

 かといって「人嫌い」かというと、そうでもなく、
気の合った友達と毎日公園で遊んでいる。


 なんにせよ、
男の子が母親にいちいち報告してくるのも、
あと数年のことだろう。

 これからは、
親が「一緒にどこかへ行こう」と言っても
「うざい」
と相手にされなくなるだろうし、
何か悩みがあっても、
いちいち相談してこないだろう。

 「チクッてんじゃねえよ」
と言われて、へこんでいる長男にも、
そのほかの兄弟にも、
私は、言った。

 「チクっていいのよ。
 いや、むしろ、チクんなきゃだめ!
 先生に相談できなかったら、
お母さんに言いな!
 それがただの【ガキのケンカ】なのか
ヤバイ【イジメ】なのか、
お母さんが先輩として見極めてやるよ。
 自分でその見極めができるようになって、
上手く解決する技を身につけるまでは
お母さんが手伝ってやるから。
 そのかわり、
大人になるまでにちゃんとその技、身に付けるんだよ。
 大人になったら、もっと嫌なヤローが
わんさか居るからな。
 そいつらとタメで生きてくためには、
子供の頃に技を覚えなきゃなのよ!
 今だけだよ。
 カーチャンがお前たちを助けられるのは。
 ヨボヨボバアサンになってから
『ママタチュケテ』ったってヤダからね!」

 またもや子供に
「極道の妻たちモード」でタンカを切ってしまった。

 子供らは、爽やかな顔でそのタンカを聞いていたが、
台所に立った私がいきなり振り返って、

「でもあんたらがイジメる方に回ったら、
それ相応の覚悟はしとけよ!
 それこそ『痛い』じゃすまねえぞ!!」

とメンチを切ると、4人揃って肩をすぼめた。

 あ・・・・・・

 ふと気付くと家じゅうの窓全開。

 また虐待を疑われちゃうな。
              

                       (了)

   (子だくさん) 2004.6.28. あかじそ作