こんなヤツがいた
 「自分ワールド」



 今日、電車に乗っていたら、
「すげえセンス」の中年男性に出会った。
 顔や髪型はいたって紳士的で、
中肉中背、立ち居振る舞いも上品で、
ちょっとした会社の経営者だということは
間違いなかった。
 ただ、着ているものが凄かった。

 ピンクのYシャツに
ピンクのマーブル柄のネクタイ、
そして、思わず目を引くその上着!

 袖の部分は、白く、
袖口は、デビッド・ボウイが着ていそうな
フリル付きのブラウス風だった。
 ---中年紳士にドレッシーなフリル。
 それだけでもかなりインパクトがあるのに、
胴の部分には、物凄く不気味な紋様が・・・・・・。

 一見、ベストのようにも見える
その胴体部分は、
白と黒のモノクロで、
陰気で抽象的な模様が渦巻いていた。
 左右非対称で、
それぞれに不気味で
意味不明の柄がプリントされていた。
 少女のような袖口と、
地獄の底のような模様、
おまけに襟ぐりには、
「そんな所にこんな飾りボタン付けるかなあ!」
という、訳の分からない
非合理的なデザインだった。

 しかし、全体的には、
物凄くいい生地を使ってあり、
「めちゃめちゃ高そう」なのであった。
 
 勤め人には着られない。
 こんな服、絶対!
 社会に通用しやしない!

 どこで売ってるの、そういうの!

 で、視線を紳士の下半身に移すと、
これまた物凄く高級そうな生地で仕立てた
シマシマ黒ズボン!
 
 高級!
 オーダーメイド!
 ブルジョア!

 でも、そのセンスか・・・・・・
 おしい!

 さら視線を下にずらすと、
なんと、スクールソックス!
 その健全で懐かしい真っ白なソックスが
すっぽりと収まっているのが、
驚くことに、真っ白なエナメル靴。
 
 真っ白エナメル靴だけでも
充分私の目を奪うだけのものはあったが、
更にその靴のデザインが凄かった。
 さくらんぼのような二つに分かれた
チョンチョコリンの可愛い飾りが付いていて、
電車が揺れるたびに
可愛く揺れていた。
 
 上半身はドレッシーな地獄、
下半身はオーダーメイドでチョンチョコリン。

 すげえ!

 私は、
世間の目や、時代の流行を
まるで気にせず、
好きな服を好きなように着て生きている、
その紳士の生活に嫉妬さえ覚えた。

 私も、人の目なんて気にせず、
自由自在にスゲエモノ着たいな、
そうなりたいな、と、
しみじみ思っていると、
電車内の誰かの携帯が鳴った。

 乙女チックな呼び出し音。
 あのはす向かいに座っている
女子高生の電話だろう。
 ・・・・・・と思いきや、
慌てて携帯を取り出したのは、
その紳士だった。
 何やら優しげにひとこと話すと、
電話を切った。
 
 「今電車だから、後で掛け直します」
といったところか。
 さすが紳士・・・・・と思いきや!

 その携帯にぶら下がるストラップに、
目が釘づけになった。
 プラスチック製の女の子の人形だった。
 それも、何かコスプレ的な衣装を
身に着けている人形だった。

 そして、もうひとつ付いているストラップは、
よく観光地で売っているマガタマ風の石だった。

 オタク風の人形に、渋いマガタマ・・・・・・。
 どういう趣味だ?
 いや、これはきっと、彼の趣味ではない。
 人にもらったストラップを、
「ありがとう」と言ってその場で付けた感じだ。
 
 この人は、多分、いい人なのだ。

 すげえセンスだが、
見ていてすがすがしい紳士だ。

 周りに振り回されて、
本当にしたいこともせず、
本当に着たいものも着ていない、
萎縮した生活をしている私には、
まぶしいくらいの紳士だった。

 ゴーゴー自分ワールド!
 一度の人生、思いっきりオリジナルで行こうぜ!

 何だか新しい目標を芽生えさせてくれた、
紳士とのナイスな出会いであった。

    
        (了)


      (こんなヤツがいた)2004.8.17.あかじそ作