みしゃさん 66800キリ番特典 
お題 「赤ちゃんたちとのお散歩or買い物」 
「 買い物 」

 結婚したての頃、
夫は、勤めはじめの試用期間で、
月収12万円だった。
 当時住んでいた東京都北区のアパートは、
2DKで、家賃は、85000円。

 収入12万で家賃85000円とは、
夫婦ふたりでどうやって食っていたのか、
今となっては、我が家の7不思議の一つだが、
どんな苦境でも、後から振り返れば
いつも何とかなっているのが我が家なのだった。

 その頃、下町に住んでいたこともあり、
巣鴨のとげ抜き地蔵通りで激安衣料を買ったり、
板橋の商店街で、魚屋の一山100円のアラや
八百屋の形の悪い野菜を安く買ったりして、
貧しいながらも楽しく買い物していた。

 そのうち、第一子を妊娠し、
埼玉の団地に引っ越してからも、
地元で古くからやっている商店街で買い物していた。

 「これくださいな〜」
 「あいよ〜」

 という、やりとりが好きで、
近くにある大型スーパーにはあまり行かなかった。

 ところが、だ。

 子供が産まれて困ったのは、
狭い路地の奥にあるちいさな八百屋の中には、
ベビーカーでは入って行けない。

 今でこそおんぶが得意なムキムキおばちゃんだが、
当時私は、どう頑張ってもおんぶは、苦しくてできなかった。

 で、ベビーカーを押して買い物に行くと、
やはり商店街では、
ベビーカーは、万人の邪魔になった。

 その八百屋に行くときは、
抱っこひもで前抱きにして行ったが、
せまっ苦しい通路と、
両脇にぎゅうぎゅう積み上げてある商品、
そして、両手に買い物の袋、
アカンボで足元見えず、の状態で、
転びそうになることがたびたびであった。

 おまけに、このアカンボというやつが、
おそろしく多動児で、
まだ目も開いたか開かないか、
という頃から、手に届く商品という商品を
片っ端からぶっ倒したり、引っつかんだりして、
抱っこして歩く私は、
まるでエイリアンに張り付かれたように不自由で、
二人羽織のように上手く動けないのである。

 いくら商店街が好きな私でも、
さすがにその状態には参ってしまい、
仕方なく、ベビーカーに乗せてスーパーに行くことになった。

 さりとて、ベビーカーに乗っていながらも、
ちょっと油断すると、アカンボは、
勝手に商品に手を伸ばしている。
 買い物の帰りに
アカンボが見知らぬお菓子の箱を持って、
べろべろ舐めているのに気付き、
慌てて店にお金を払いに行ったことが何度もある。

 しかし、まだおとなしくしている分にはいい。
 歩くようになってくると、
ベビーカーにチュンと乗っているわけが無い。

 店のカートに乗ってくれるときはいいが、
「自分で歩きたい」と言い出したときは、
まず買い物はあきらめたほうがいい。

 店じゅうを走り回る子供を
ヒーヒー言いながら追いかけて、
お菓子売り場でひっくり返って泣かれ、
くだらないオマケ付きお菓子を買わされて帰るだけである。

 そんな子供が、ひとりでも大変なのに、
三人もいたら・・・・・・

 買えない!
 買えるのは、何とかレンジャーソーセージか、
お菓子だけ。
 散々脂汗流した挙げ句、 
特売の卵もひき肉も買う暇なし!

 ・・・・・・というわけで、我が家は、
「ヨシケイ」という宅配食材を利用し始めた。
 子供たちが小さいうちは、これでも足りたが、
だんだん大きくなってきて、
分量が足りなくなってきたので、
生協の個人宅配に切り替えた。

 これで買い物は、ぐっと楽になったが、
足りない食材をちょっと買い足したい、というとき、
「ちょっとお母さん買い物してくる」
というと、「行く行く行く」と、
もれなく幼児がいっぱいついてくる。

 で、100円のねぎを買いに行ったのに、
100円のおかしを3人分買わされて帰ってくるのだ。

 初めは、どんなに泣いてもひっくり返っても
 「ダメ!」
と無視していたのだが、
そういうのが三人ともなると、店やお客さんに
物凄く迷惑になるので、
こらえ性のない私は、根負けして毎度毎度買っていた。
 そのせいで、
「泣いてひっくり返れば買ってもらえる」
という考えを子供たちに植え付けてしまったのだ。

 そういうわけで、
買い物に行くと泣き喚く子供たちと格闘し、
要るもの買えず、要らんもの買いすぎ、
という買いものが私を買い物嫌いにしてしまった。

 子供が泣くだけならいいのだが、
知らないおばちゃんに
「何泣かしてるのよ!」
と怒鳴られたり、白い目で見られたり、
何だか、周囲の目にも耐えられなくなってきたのだ。

 しかし、子供たちは、やがてどんどん成長し、
幼稚園やら学校やらに行き始めると、
一気に、家にひと気がなくなる。

 昼間、ポツーン、とひとりで買い物に行っても、
最初はノビノビしていても、やがて淋しくなってくる。

 「これ、おいしそうだねえ」
と言い合う相手も居ないし、
子供が好きそうなフルーツが並んでいても、
「買って〜!」
という声も聞こえない。

 ひとりでノビノビ買い物するのが夢だったのに、
そんなのは、1、2回で飽きてしまった。
 やっぱり、何だかんだ言い合いながら
買い物するほうが楽しいものだと、私は思う。

 それでも、ただ、いっとき、
「ひとりで行かせてくれ!」
と、強く思った時期があった。

 4人目妊娠中だ。

 3人のチビをドツキドツキしながら店まで行進し、
(私の買い物は、大抵「徒歩」か「チャリ」だ)
私自身は、ドデカイ腹を抱えてそっくり返って歩くと、
本当に、見るからに

「貧しき可哀想な一家」

 という空気が流れているのだ。

 「いやいやいや、幸せなんですよ」
というムードを漂わせてみるが、
やはり、すれ違う人すれ違う人、みんな、
「うわあ・・・・・・」という視線を浴びせてくる。

 産んでしまうと、途端にそんな感じは無くなり、
ぞろぞろ4人の子連れ散歩も
「エッヘン」という気分に変わってしまった。
 「こんなに産んじまったよ、どうだ、あんたらにできるかい?」
という妙な自信が湧いてきて、
子供たちと歩くのが好きになった。

 ところが、そうなったとたんに、
今度は、子供たちが私から離れていった。

 母親や兄弟とぞろぞろ並んで歩くのは、
自分はいいが、友だちに見られると恥ずかしいらしい。

 学校から帰ればすぐ友達と遊びに行ってしまうし、
欲しいものがあれば、
勝手に自分で店に行って買ってくる。

 最近は、食材の買出しを
子供に頼むことも多くなってきた。

 あんなに大変だった買い物が、
今や、「行って来て」のひと言で、
自動でできるようになった。

 今後は、ひとりで淋しがらずに買い物ができるようになり、
やがて、杖をついてショボショボ買い物に行くのか・・・・・・?

 案外、でかいワゴン車を乗り回して、
後ろに息子や嫁さんや孫たちを大勢積んでいる
すげえ買い物ばあさんになっているかもしれないな。

 充分ありえる!


       (了)

(子だくさん) 2005.3.8. あかじそ作