「 飛び出せ! 扶養家族! 」

 ここ数年、夫の脱サラやら何やらで
経済的なピンチは、数え切れなかったが、
そのことで「運命共同体」という自覚が生まれ、
夫婦で手を取り合ってがんばれたような気がする。
 しかし、どうも妊娠してから、ホルモンの関係か、
私の情緒が不安定になり、
そこへ子供たちの問題や減収が重なって、
どうにもこうにも理性が保てなくなりつつあった。

 「最近商売の方は、順調だから」
と言う夫のことばの数日後、突然、
「今月は給料5万円だから」
などと言われることに、
積み重なった不安が積もりに積もり、
何度も何度も私も勤めに出てみた。

 しかし、焦って決めた仕事は、
どれも自分には恐ろしく不向きなものばかりで、
結局余計に情緒不安定になった挙げ句、やめていた。

 思えば、高校時代から
私は常に何かしら働いて収入を得、
自分の欲しいものは自分で買っていたし、
夫との同棲中は、失業中の夫に代わって
私が夫を養い、夫の組んだ高額のローンも、
肩代わりしてあげてもいた。

 ところが、長男を妊娠して、
三男が1歳になるまでの5年間が私を変えた。
 一年おきの妊娠で、
5年間家に引きこもって育児に専念しているうちに、
育児への自信の無さが増幅して、
徐々に社会人としての自信も
人間としての自信も無くし、
ノイローゼになっていったのだった。

 しかし、古家購入にともなうローン支払いをきっかけに、
子供たちを託児所に預けてヤクルトで働いた2年ほどは、
大変ながらも自分らしさを取り戻せていた。

 今回、5人目を妊娠して
何が一番嬉しかったかというと、
「やっと次のステージに進める」
ということだった。
 と、いうのも、四男出産後、
5人目の妊娠をするまでの丸5年、
どんなに張り切って勤めに出ても、
どこかでいつも
「今、私は、仕事をしている場合ではない」
という思いがいつも頭の端にあり、
今考えると、やはり、

「ちゃんと5人をしっかり産み終える」
   ↓
「バリバリ働いて子供たちを食わせていく」

という順番を、しっかり守りたかったのかもしれない。

 どんどん年をとっていき、
産める年齢もあとわずかになっていく中、
「金を稼がなければ」という危機感と
「早く産まなければ」という危機感が
自分の中でごちゃごちゃになり、
その自覚のないまま、
わけのわからない情緒不安定に陥っていたのだろう。

 異常にのんびりまったりとしていて、
結果、甲斐性も経済力もない夫。
 しかし、それがわかっていて、
「金よりもゆるぎない優しさを」
と思って結婚したのは、私だ。
 この結婚を選択したのは私であり、
ここへきて夫に
「もっと金持って来い」
だの
「こんなはずじゃなかった」
だのと言うのは、男らしくない。
(男じゃないけど)
(「男前な女」としての名がすたる)

 「月5万で、支払いもあるのに、どう生きろというのか」
と、途方に暮れ、
家計簿を何度も見直しても、
もうすでに切り詰めるだけ切り詰めているので、
どこからももう、一円も引けない。

 煮詰まって、息苦しくなり、
大きくなり始めた腹をさすりながら、
「中の人」に聞いてみた。

 「おい、マジでやばいんだよ。どうしよう?」

 すると、「中の人」は、こともなげに、

 「金がなきゃ働きゃいいじゃん」
 と言う。

 そうか。
 働こう。

 家計簿に付いている
[これから30年間のロングマネープラン]
という欄に、今まで私は、
「私40歳・第5子1歳」→「パートに出て月8万円得る」
と書いていたが、
思い切って、
「私40歳第5子1歳」→「フルタイムで就労」
と書き直した。
 そして、「60歳までパート」と書いてあるのを、
消しゴムでドバ〜〜〜ッと一気に消したおして、
「40歳〜50歳まで10年間しっかり稼ぐ!」
「50歳〜60歳まで10年間楽しんで稼ぐ!」
「60歳〜死ぬまで何かしらして働く!」
と書き直した。

 職種は問わない。
 ひたすら稼ぐんだ。
 何度転職してもかまわない。

 夫をあてにせず、
子供をいっぱい産んだオトシマエを、
自分でつけるんだ。

 できたものは産む、
産んだものは育てる、
育てたものは愛するのだ。

 そう腹をくくったら、
いきなり気分がパ〜ッと晴れてきた。
 今まで、夫の持つ小さな傘(甲斐性)の下で
一家6人どう雨に濡れずに歩いていこうかと、
神経をすり減らしながら生きていたが、
そんなことはもうやめた!

 私の性に合わない。

 熱血青春主義の私が、
典型的な「帰宅部タイプ」の夫に、
どんなにハッパをかけたって、
自分のパワーをセーブしたって、
所詮収まりきれるものではなかったのだ。

 がんばれないタイプの人に
キーキー言ってがんばらせるよりも、
自分ががんばったほうが断然早い。

 結婚15年にして、
アホみたいだが、今さら気づいた。

 思えば、結婚式直前、母と行った健康ランドで、
遊び半分で占いをしてもらったら、
「この結婚は100%うまくいかない。保障する!」
と断言された。
 「生きる力が違う」
と言われた。
 「夫婦は、歩調が合わないとうまくいかない」
 「あんたが姫なら、相手は足軽」
 「歩く一歩の大きさが違いすぎる」
 「あんたには殿様タイプの人じゃないと合わない」
と、立て続けにズバズバ言われた。
 「でももう結婚式あさってだし」
と言い返すと、
「どうしても、どうしても、
この無茶な結婚を決行するのなら、
あんたは子供をたくさん産んで、
何か仕事を持たないと絶対にダメだ!」
と言われた。
 「あんたが重荷を負って相手に歩調を合わせないと
あんたたちは並んで歩けない」
 「相手には、あんたに合わせる力は無い」
と。

 ・・・・・・思いっきり当たってるじゃん。

 占いなんて全然信じてないから、
まったく忘れていたけれど、
ビッタシ当たってるじゃねえか!

 ああ、そうかいそうかい。
 そういうことかい。

 やっぱり、私は姫で、夫は足軽。
 60年に一度の炎の馬・ヒノエウマと、
果てしなく猫に近いトラ年。
 燃える女と眠る猫。

 そうか、わかった。
 やっぱり私が燃えるしかないんだね!
 ひひ〜〜〜ん!
 やっぱり私が食わしていくんだろうね!
 ひひ〜〜〜ん!

 金も無い。
 職も無いけど、
人生のメドがついて、覚悟もできて、
気持ちが落ち着いたってもんだよ!

 飛び出せ! 扶養家族!
 養え! 家族!

 しかし、ここまで悩んで苦しんで、
答えを出したこの生き方だけど、
そもそも、そんなに必死になって守ろうとする
夫との結婚生活って・・・・・・?

 そんなに死守するに値するものなのか・・・・・・?

 ああ、それを言っちゃあ、おしまいですな。


   (了)

(しその草いきれ)2005.5.31.あかじそ作