「 A型被害 」

 私の血液型はA型だ。
 しかし、AAタイプではなく、AOタイプだと思いたい。

 なぜなら、私は、血液型A型の連中に囲まれ、
日々A型野郎どもに振り回されている、
「A型恐怖症」の人間だからだ。
 自分が「A型の中のA型」だとは、
決して思いたくないのだ。

 我が家は、夫も私も、息子たち4人も、
みんなA型である。
 夫の両親も、私の両親も、
み〜〜〜んなA型なのである。

 A型は、細かい。
 A型は、神経質だ。

 確かに、「神経細やか」とか、「しっかり者」だとか
「協調性がある」とか言われてもいるが、
その実、彼らはみな身勝手だ。

 はっきり言って、ソトヅラがいい。
 「いい人」だと思われている節もあるが、
ほとんどのA型は、人前では無理している。
 無理して「いい人」をやっている。
 誰にそうしろといわれたわけでもないが、
体の中の血が彼らをそうさせる。

 「和」を築き、「平」を保てば、
とりあえず自らの身を守れるような気が、
本能的にしているのである。

 しかし、気の置けない家族などの前では、
A型は、自らの器の狭さを恥ずかしげも無くさらけ出し、
「自分はこうこうこうでなくっちゃ気がすまない」とか、
「あいつは、こうこうこうで、イライラする」とか、
ぐちぐちぐちぐち言っている。
 それは、広い視野にたって物を言っているのではなく、
あくまで、自分の立場から見て
「こうこうこうでなくちゃ気がすまない」
という変な固まったこだわりから来ているのだ。

 ちなみに、何度も言うが、私もA型だ。
 自分の嫌なところを省みて、
反省の意味を込めて、
あえて厳しく指摘している。

 たとえば、昨日一日分の「A型被害」だけでも、
これだけある。


 ★「A型被害」その1

 長男の作った夏休みの宿題(自家製万華鏡)が、
自分の不注意で壊れてしまった。
 長男は、家族がいろいろなぐさめても諭しても、
聞く耳持たずに大パニックに陥り、
キーキーキーキー大暴れした挙げく、
材料費200円がパーだ、大損だ、もう嫌だ、
宿題なんてもうやらない、夏休みなんて大嫌いだ、
部活もキツイし、暑いし、疲れるし、
もう嫌だ、何もかも嫌だ!
 キキキキキーのキーーーーーー!
・・・・・・と、叫び、ふてくされて寝た。
 その間、兄弟の宿題を踏み散らし、ぶちまけても、
平気の平左。
 自分のことでいっぱいいっぱいで、
周りがまったく見えていない、
ケツの穴のちっちゃい言動の数々。
 そのくせ、翌朝には、
決められた時間より随分早く部活に出かけていく。
 夜中には、敬語で
「はい、優勝です、優勝めざして頑張ります」
と先輩に誓っている寝言を吐く。

 う〜ん、へたれ丸出し。


 ★「A型被害」その2

 今日から3日間、林間学校に出かけている次男。
 本人、かなり前から楽しみにしていて、
次男が入り浸っている私の両親の家でも、
一緒になって異常なほどに盛り上がっていた。 
 昨晩のこと。
 旅行中の3日間、台風が来る、雨が降る、
ということが天気予報でわかったとたん、
両親からは、数分ごとに電話が掛かってきて、
「雨具は用意したか」
「バッグは防水加工してあるのか」
と、いちいちいちいち細かいチェックが入った。
 午後7時前に掛かってきた電話には、
さすがの次男もちょっとうんざりした様子だった。
 そして、
「お母さん、ばあばが電話替わってって」
というので、私が受話器をとると、
いきなりヒステリックな声で
「ちょっと! ユージの靴、メッシュじゃないのよ!
雨で濡れちゃうじゃないのよ!
どうすんのよ!
 買いに行くなら早くしないと!
 どうすんの!
 ねえ! どうすんの!」
と、言っている。
 その声の向こうで、もっとヒステリックな父の声がする。
 「もう店が閉まっちまうじゃねえか?
 早く買いに行かせろ!
 ああ、ダメだ! あいつはモタモタしてるから、
俺が行かなくっちゃいけねえじゃねえか!
 何のろのろしてやがるんだ! 
 早く、靴屋に行かねえと間に合わねえだろ!」
 ・・・・・・実家は、大パニックになっていた。

 一方、子供を旅行に行かせる当の我が家は、
のんびりとテレビのバラエティ番組を見て、
みなでゲラゲラ笑っていた。
 この、我が家の空気と電話の向こうとの温度差といったら、
すさまじく、返ってこっけいなほどだった。

 結局、私がノンビリとした声で
「雨が降れば靴が濡れて、それをどうするか、
そういうのも含めての勉強なんだから、
わざと不備だらけで送り出すつもりだよ。
 本人のためにも、
周りが先回りしてやらない方がいいんだよ」 
というと、母はハッとして、
「そうね、そうよね」
と言って、それからは電話は鳴らなかった。

 A型愚かなり。
 それがいいことだと思い込み、
蜘蛛の巣のように神経を張りめぐらせ、
自然にさえも勝とうとしている、キリキリビトめ。
 あんたらの放つ、その「キリキリ毒」に、
周囲の者がやられてしまい、
自らの神経もやられていくことにも気付かぬとは。
 死ぬまでそうやってキリキリし通すつもりかえ?
 疲れるわい!


 ★「A型被害」その3

 林間学校にでかける次男。
 私の学生時代の大型リュックを貸したのだが、
昔式で、開閉がすべてヒモで蝶結びするようになっている。
 しかし、次男、小5にもなって、蝶結びができない。
 今のバッグの開閉は、みな「ファスナー」か「カッチン式」で、
不器用人間を量産しているような状況だ。
 次男に連日蝶結びを特訓するが、
まったくできるようになる気配なし。
 教える私も、教わる次男も、
何時間やっても特訓がまったく実を結ばないので、
いい加減イライラし、キーキーし、しまいには、
二人して半泣きで取っ組み合いの大喧嘩になってしまう。
 何やってんの! あんたら!

 落ち着けよ、A型!
 落ち着けば、大抵のことは何とかなるのにさあ、
すぐにイライラして、キーキーして、
大パニックだもの!
 小せえよ! A型!
 小さすぎるよ、A型は!


 さて、もうすぐお盆。
 帰省シーズンだが、憂鬱なことがひとつ・・・・・・。

 夫の母親は、生粋のA型で、
家事を手伝うオオザッパな嫁の私を悩ませる。
 食事の後、
「私が洗いますよ」
と、皿を洗えば、
流しの前に立つ私の
斜め後ろ30センチの所にぴったりと立ち、
水切りかごに入れた食器の位置をいちいち直す。
 ほんの数センチの違いでも
自分のやり方と違うと気持ちが悪いらしく、
瞬時に手が出て、一回一回いちいち直す。
 「それなら私は、手を出さない方がいいのかな」
と思って、家事の手伝いを遠慮していると、
これまた機嫌が悪くなる。

 どうすりゃいいのさ、たこのふんどし!

 家事すべてに義母独自のルールがあり、
寸分違わず守らなければ散々言われる!
 実家のしつけや両親の人柄までも、
言いたいだけ言われてしまう。

 手伝え!
 ルール守れ!
 BUT,ルールの説明はしないわよ!
って!

 勘弁してよ、おばさん!(おっと「お義母さま」でした)


 ああ、「お義母さま」と言えば、
なんとまだ今回の懐妊を
「お義母さま」に報告していないのであった。
 
 「子供は3人までしか産んではならぬ!」

 と、義母の決めたルールに、
恐れ多くも逆らって4人目を産んだ嫁の私が、
さらに5人目の懐妊を、どの面さげて報告できようか?

 お盆には、妊娠8ヶ月になる。
 隠し通せるわけも無く、
勇気をだしてカミングアウトすれば、
A型大魔王の「キリキリ大処刑」が執行されるのは必至!

 夫も、もれなく「へたれ」のA型なので、
間に入って守ってくれる期待薄!

 ああ、聞こえる聞こえる。
 イヤミ、皮肉、愚痴、陰口の嵐が!
 そして、石川県からここ埼玉まで、
お義母さまの恨みつらみの生き霊が、
はるばる遠征してくる恐怖!!
 (ときどき背中に感じるのだ、妙な恨みの霊波を!)

 A型嫁の私は、やっぱり、もれなく「へたれ」なので、
びびって、びびって、おびえた日々を送っている。

 助けて〜!

 A型怖い〜!

 A型被害、甚大〜!



        (了)

(話の駄菓子屋) 2005.7.26. あかじそ作