「 厄払い 」 |
物に埋もれて暮らしているのにいい加減うんざりしてきた。 親から貰ったすさまじいまでの趣味の悪い雑貨の数々、 4人の子供たちがそれぞれ買ってきた細かいおもちゃたち、 夫が絶対に手放さない、マニアックな本やカセットテープ、 読み終わって山積みされたままの私の雑誌数十冊・・・・・・ 居間に、子供部屋に、寝室に、廊下に、玄関に、 もう足の踏み場もないほどに置いてある。 物がふんぞり返ってのさばり、 人間たちが小さくなって暮らしているなんて、おかしいぞ! おまけに、子供の友だちが勝手にどかどか入ってきて、 「この家キタネ〜!」 と言い放って行った日にゃあ、 インテリアが大好きな私は、号泣したくなってしまう。 もう、ここいらで、子供たちや夫に恨まれても、 猛烈に冷酷になって物を処分しまくらなければならない。 「いつか使うかも」 「一生使わねえ」 「私の宝物」 「私以外にとってはゴミ」 「やっと手に入れたレア物」 「子供とどっちが大事だ」 「もう売っていない貴重な書籍」 「いまや南京虫の集合住宅」 「記念に」 「しまったままだよな」 「子供に」 「そんなの要らないってさ」 もう、捨てようぜ! 今、絶対必要な物以外は、 みんなみんな思い切って捨てちゃおうぜ! 大切な物を見失ってしまい、 人間様が小さくなって暮らすのは、 どう考えてもおかしいだろ〜〜〜!!! もう、容赦無用だよ! 思い出の品なんか、要らないよ! 前だけを見て生きるんだ! 過去の記録なんて振り返るのはやめた! 記憶だけで充分だ! 新しい家族が増えるんだ! スペース空けろ! 物捨てろ!!!!! 今日は、夫と同棲していた時代からの びっちりと記録し続けてきた家計簿15年分を、 片っ端から手動シュレッダーにかけた。 細長い紙がスーパーの袋5袋分できた。 「夫失業収入ゼロ円」 「就職決まるまでバイトとやりくり頑張るぞ」 なんて書き込みを、涙ぐみながら細かく刻む。 「月収12万円」 「実家から8万借りる」 「また実家から5万借りる」 赤い文字で書いてある。 「頑張れ、私!」 「いじめられても仕事やめるな!」 家計簿のメモ欄に女の子のイラスト入りで書いてある。 「夫、30万のローンを組んだ直後、また夫仕事をやめる」 その後、私が生まれて初めてもらったボーナスを、 その返済に充てた記録発見。 そんな頑張った日々を、後でしみじみ読み返そうと、 捨てずに大事にとっておいたが、 下唇を噛み締めながら、全部刻んだ。 みんな終わったこと。 済んだ苦労だ。 もう振り返るもんか。 過去の苦労を自慢になんかするもんか。 夫は、一緒に住んで以来、 自分で起きたことがほとんどない。 「自立の第一歩は、自分で起きることだ」と、私は思うのだが、 夫は、どうせまた妻が起こしてくれるだろうと安心しきって、 いまだに寝たいだけ寝ている。 「もう年なんだから、夜中に仕事をするんじゃなくて、 朝早く起きて、明るいうちに仕事にかかったら」 といつも言っているのだが、 「うん」 と言いつつも、まったく聞く耳を持たず、 寝たいだけ寝て、遅刻を繰り返す。 こんな生活、変えたいのだ。 夫にぶら下がって、 夫の収入だけに頼って暮らすのは、もういやだ! 私は、自分で働いて、子供たちを養いたい。 そして、夫に情緒を左右される生活を、もうやめたい。 だから、今までの物は、みんな捨てるんだ! 頑張った過去は、自分の感傷をそそるだけで、 子供たちの腹を満たしてはくれない。 山積みの雑誌をどんなに接ぎ合わせても、 育ち続ける子供たちの衣服にはならない。 捨てる捨てる捨てる捨てる! 未来のために、捨てるのだ! 明日を生きるために 足かせになる物の数々を、 一切捨てるんだ! この子たちを育てるためにも、 明日の自分を開くためにも、 スッパリと未練を断ち切って、 キッパリと依存心を捨てて、 前しか見ない。 捨てて捨てて捨てまくって、 厄払いをした後に、 心にかかった霞を払うんだ。 明日を生きるんだ! (了) |
(話の駄菓子屋)2005.9.20.あかじそ作 |