「 悪行三昧 」



 先日、部屋の模様替えをしていて、
十年以上前の家計簿を発見した。
 「お料理家計簿」というもので、
全ページに家庭料理のレシピが満載されたものだった。

 巻末のオマケのページには、
なんと今をときめく細木数子の若かりし頃の写真が載っていて、
六星占術のコーナーがあった。

 私は、占いをまったく信じないクチだが、
その日はたまたま暇だったので、
何気なく自分の誕生日を計算してみたら、
「木星人+」ということだった。

 そして、今年の運勢を見てみると、
なんと、「中殺界」ではないか。

 今年は、高齢出産をするというのに、
何と言うサイサキの悪さ・・・・・・。

 いくら占いを信じないとは言っても、
何だか気持ち悪いなあ、と思いつつ、
解説を読んでいると、なるほどということが書いてあった。

 「大殺界を乗り切るために」

 @自分から毒が出る時期にあたるから、
  その時期はひたすら自分を殺すこと。

 Aあえて自分の苦手なことをすること。

 Bあえて自分の苦手な人と付き合うこと。

 なぜかというと、殺界の時期は、
肉体的にも精神的にも自分から悪い毒が出まくって、
そのまま何気なく暮らしていると、
自分も周りの人も、その毒にやられてめちゃくちゃになってしまう。
 だから、あえて、自分を抑え、
静かに時を過ぎるのをじっと待て、ということだった。

 そして、なぜわざわざこの時期に
苦手なことをしなくてはならないか、というと、
この時期に大事な決断をすると
狂った自分が間違った決断をしてしまって、
自分の大切にしているものを失ってしまうからだという。
 だから、わざと自分らしくないこと(つまり、ある意味修行)をして、
自分から出る毒を相殺することにより、
結果的に自分を生かし、守る、ということらしい。

 そして、苦手な人と付き合うことで、
その人が「自分から出る毒」を弾き飛ばしてくれて、
毒が大切な人に降りかかるのを防いでくれるのだ。

 ほほ〜う・・・・・・

 占いは信じないが、
人生哲学としては、なかなか筋が通っていると思う。

 厄年に亡くなったり大病を患うのだって、
単なる占いではなく、昔からの統計で、
その時期には肉体的にも精神的にも
弱ってくるという年回りなのだろう。

 女性の月経がほぼ28日周期で繰り返すのは明らかだが、
目に見えないだけで、厄年とか、大殺界とかも、
月経と同様に、生理的で周期的なものなのではないだろうか?

 そう考えると、私は、十年以上前の細木さんに
ふいに「ズバリ言われた」ということになる。

 中殺界の今年は、精神毒が出る時期らしい。
 そういえば、ここ数年穏やかだった私の心が、
今年に入ってから物凄く波立ち、イライラしている気がする。
 これは、妊娠しているからだと思っていたが、
いくら妊婦で情緒不安定でも、
思い通りに夫や子供たちが動かないからと言って、
「死ね、この野郎!」などという恐ろしい言葉が
自分の口から飛び出してくるのには、
自分でも驚愕し、困惑しきっていたのだった。

 悪い。悪すぎるし濃い。私の毒は。

 細木さんの言葉では「自分を殺せ」ということだったが、
そこまで抑圧的でなくても、
せめて、この「精神毒出まくり」の時期は、
口を慎み、何か言うときは一拍置いて、
ちゃんとセリフの内容を吟味してから発することが肝要だ。

 思えば、今まで私は、
夫が静かで従順なことで調子に乗って、
頭に来れば物を投げ、蹴飛ばし、大事なものを破き、壊し、
思う存分大暴れしてきた。
 ついさっきまで、これは、
何もわかっちゃいない夫や子供たちへの
「シツケ」だと思って疑わなかった。

 しかし、違う角度から自分のしていることを見たら、
ただの「家庭内女王様」状態だったのではないか?

 先日、末っ子の幼稚園の運動会で、
異様な光景を見たのだ。

 ある園児のパパママお兄ちゃんと一緒に、
おじいちゃんおばちゃんが来ていた。
 そして、もうひとり、
40歳がらみの「未婚のおばさん」らしき身内がいた。

 パパもママもお兄ちゃんも、
おじいちゃんもおばあちゃんも、
みんな優しげでいい人そうなのに、
その「おばさん」は、レジャーシートの上にべったり座り、
なぜか不機嫌むき出しだった。

 ダブダブに太ったその「おばさん」は、
園児のママ、つまり弟の嫁に
「みんなにジュース買って来い」
「お兄ちゃんに帽子かぶせてこないとは何事だ」
「気が利かねえんだよ!」
「とっとと動けよ」
などと、怒鳴りつけているのだ。

 ママは、ひたすら「ハイ」と返事して、
必死に走り回っていた。
 子供の出ている競技やお遊戯を見ることもできずに、
「わざわざお前の子供を見に来てやっているんだよ」
という義理の姉に尽くしている。

 「お前なんか来なくていいよ」
と、そばにいる他人の私が言いたくなった。

 しかし、その「おばさん」は、
「気が利かない」、「何もわかっちゃいない」弟の嫁や、
自分のおとなしい父母に怒鳴り散らし、
大きな声で説教している。
 自分だけが、このぼんやり家族の中で唯一しっかりしていて、
自分が必死に「シツケ」てやらないと
家庭が回らないと思っているようだった。

 「みんなバカばっかりで、私、疲れちゃう!」
とイライラしまくっているのだ。

 これって・・・・・・
 まるっきり今の私の姿ではないか?

 家族がおとなしくて、自分に逆らわないからと言って、
自分の論理に家族みんなをはめ込んで、
裸の王様みたいに威張り散らしている。

 私は、そのとき、
冷たい水をぶっ掛けられたような気持ちになった。

 私は、この十数年、
このおばさんと同じことをしてきたのだ・・・・・・。
 醜い。
 邪魔。
 勝手。

 「お前なんか居なくなっちまえ」
ってほど有害な勘違いバカ野郎だ。

 そして、今年は、「中殺界」で、
特に毒が猛烈に放出している。

 ああ、今からでも、すぐにでも、自分を抑えよう。
 苦手なことしよう。
 苦手な人と付き合おう。

 そうだ、イヤでイヤで仕方がない
「父との買い物」を進んで引き受けよう。
 ムカムカして仕様が無い
「父との会話」をまじめにやってみよう。

 世界一苦手な人間=父親に
私の「中殺界」を祓ってもらおう。
 そして、愛する家族の前では、ひたすらおとなしく、
毒を吐かないように静かにしていよう。

 今までの悪行三昧を懺悔し、
運動会で見たあの、イヤな「おばさん」的部分を、
自分の中から追放するのだ。

 誰も注意してくれなければ、
私は、死ぬまでイヤなヤツだった。

 危なかった!
 マジ、危なかったよ!!

 ありがとう、
私に古い家計簿を開かせてくれて、
「イヤなおばさん」を目撃させてくれた、
神様!仏様、ご先祖様!

 私は、目を覚まし、
これからは、普通のお母さんになります!
 ワオ〜!


     (了)


  
(しその草いきれ)2005.9.27.あかじそ作