「 肛門よ 」

 妊娠中のせいか、腸が子宮に圧迫されて
便の調子がよくない。
 便秘が続いたと思えば、いきなり下痢をする。
 それを繰り返していたら、やっぱり痔になった。

 鏡で見たわけではないから、
どういう状態かは、はっきり把握していないのだが、
おそらく、肛門の縁が
ちょっとプックリ豆みたいに腫れている。

 ウォシュレットの付いていないトイレを使っている我が家では、
痔になると、大変である。
 そもそも、ウンチの後、
拭いても拭いても紙にウンチが残るとき、
どの辺であきらめて拭くのをやめるか、結構悩むのだが、
皮膚が弱く、すぐあちこち痒くなる私は、
とことん綺麗になるまで拭いてしまうのだ。

 それで、ゴシゴシ拭きすぎて痔になってしまうことも多い。

 ウンチの後、肛門の傷を綺麗にしようと、
清浄綿やら濡れティッシュでよく拭き、
市販薬ボラギノールを塗るのだが、
いかんせん、一回痔になると、治るのに時間がかかる。
 チューブ一本で完治すればめっけものだ。

 と、いうのも、普通は、怪我をしたら傷口は、
消毒され、滅菌済みのガーゼや絆創膏で覆われ、
ねんごろに扱われているものを、
こと肛門の傷となると、
消毒もされず、また、まだ傷も生々しい状態なのに、
次から次からウンチが通過するのである。

 しかも、硬いウンチが傷をゴリゴリ擦り、
柔らかいウンチが傷口の間にニュルニュル入り込んでくる。

 傷だよ!
 確かにウンチの出口で、
ウンチを出すのが肛門の仕事だけど、
今、彼は、怪我をしているんだよ!
 もっと優しくしてあげようよ!
 せめて、怪我が治るまで、
そっとしてあげなきゃ、可哀想だよ!

 朝から肛門にボラギノールを塗りながら、
私は、肛門の生まれながらの悲運に同情し、
泣きそうになった。

 人には「臭い臭い」とバカにされ、
それでも、絶対になくてはならない大切な仕事を担い、
怪我をしてもお構いなしでバイキンにさらされて、
それでも、文句ひとつ言わずに排泄させてくれる肛門。

 アンタってヤツは!
 泣けてくるよ、本当に!
 まったく何てお人好しなんだ!


 私は、自己チューの両親に翻弄される自分と、
肛門の立場とを重ね、
朝からトイレで号泣しそうだった。

 肛門、がんばれ!
 負けるな、肛門!

 ウンチを通すのが君の使命。
 傷ついてへこたれても、君は、決して仕事の手を抜かない。
 私は、いつも君を見守っているよ。
 君の活躍を、遠くから応援しているからね。
 君の頑張りは、誰にも気付かれずに
そのまま一生を終えるかもしれない。
 でも、君がいなければ、みんな一日だって生きていけないんだ。

 生きろ! 肛門!
 通せ、ウンチ!

 傷つき血を流しながらも、
地味に働く君の生き様に乾杯!!


       (了)


(しその草いきれ)2005.10.11.あかじそ作