「 39歳のチャレンジ 14 」

 お産が終われば、
この挑戦は、終了するものかと思い込んでいたが、
どっこい、そうは問屋が卸さなかった。
 それどころか、ますます熾烈を極めていくようにも思える。

 入院中、医者や看護師さんたちに
「5人目産んでえらいねえ」
「頑張ってるねえ」
と持ち上げられて、すっかりいい気になっていたのだが、
退院してみて愕然とした。

 確かに、毎朝、夫が洗濯や子供の弁当作り、
幼稚園児の送り出しなど、
一連の朝の面倒な仕事をやっつけてくれるのだが、
私は、パジャマで一日寝たり起きたりしながら過ごす、
というようなことは許されなかった。

 ひっきりなしにやってくる訪問者に対応しなければならないからだ。

 生協の個人宅配、ヤクルトレディ、
夫の田舎から送られてくる米や果物、
親戚からのお祝いの現金書留、
近所の建て替え物件との共有私道の境界確認、
水道局の説明、ガス屋の契約更新説明など、その他もろもろ、
とにかく、毎日ひっきり無しに誰かしらが訪ねてきて、
それらがどれもむげにもできないものばかりだから、
出ないわけにもいかない。
 もちろん、中には、訪問販売や宗教の勧誘もあるが、
そんなものも入れると、
一日に何十回も玄関チャイムに応答することになるのだ。

 また、この時期、幼稚園も小学校も中学校も、個人面談があり、
その他にも、長男の部活の校外コンテストや、
幼稚園のクリスマス会、小学校の音楽発表会など、
「これだけは参加しないとまずいでしょう」
といったイベントもてんこ盛りなのであった。

 さすがにいくつかは欠席させてもらったが、
幼稚園の親子会食などは、
「万障お繰り合わせの上ご出席ください!」というもので、
どうしても、生まれたばかりの赤子を預け、
寝不足でぼろぼろの体を引きずって
出かけなければならないこともある。

 アカンボの世話だけしていればいいのであれば、
眠いけれども、何とか乗り切れる。
 少しづつでも自分の体も回復させられる。
 ところが、こう子供が多いと、そうも言っていられない。
 どの子も可愛いわが子なのだ。

 そんなわけで、無理に無理を重ねて、
家事育児をいつもの60%くらい頑張っていたのだが、
期待していた兄貴たちの協力が今イチ足りない。

 アカンボを抱くとか、アカンボに服を着せる、とか、
そういうアカンボがらみの手伝いは喜んでしたがるのだが、
そのほかの家事一般は、
今までやってくれていたものまでをも、嫌がるようになってしまった。
 とにかく、アカンボがらみをやらせろ、ということなのだ。
 どいつもこいつも。
 そして、私の実母までも・・・・・・

 かくして私の可愛いアカンボは私の手の届かないところで
やんややんやと抱きまわされ、
私ひとりが薄暗い台所で、ひとり、大量の皿を洗っている、
というような状態がしばらく続いた。

 頑張って布団も干したし、
頑張って洗濯も干し、また、取り込み、
家じゅうの雨戸を開けてまわり、閉めてまわり、
トイレの床を拭き、掃除機をかけ、
幼稚園バスを迎え、オヤツを作り、
アカンボを沐浴をさせ、オムツを取り替え、
母乳をやり、ゲップを出させ、寝付くまで抱き、
夕飯を作り、配膳し、皿を洗い、
宿題を見てやり、大量の洗濯物をたたみ、
夢中で学校であったこと話す子供たちに耳を傾ける。

 頑張って頑張って、頑張りまくって、
気がついたら、猛烈にイラついていた。
 子供たちに怒りまくり、大爆発し、
キーキーキーキー叫んでばかりいた。

 四男に、
「おかあさん、けんかやめなさい」
と叱られて、ハッと気付くまで、
子供相手に本気で大喧嘩していた。

 いけない、いけない。
 5人目で希望の女児を無事授かって、
これほどめでたいことはないというのに、
なぜこんなにもイラつき、テンパッテいるのか。
 落ち着け、落ち着くんだ、私!

 しかし、頭はそうわかっていても、
心の高ぶりは押さえられなかった。
 常に眠く、常に疲れ果て、
常にやらなければならない仕事が目の前に山積みで、
常に子供たちは手伝わない。
 もう、どうしようもない焦りとイラつきと疲れが
アカンボの泣き声と共に、
私にガガガガガガ〜ッ、と襲い掛かってくるのだった。

 ああ、もうかなりやばいぞ、
と、思っていたら、それが今度は体に来た。

 下痢が止まらないのだ。
 いい加減、ケツがもたないぜ、と思っていたら、
今度は、頻繁な尿もれ。
 お産パットで足りるくらいなら、今に治るだろうと思っていたら、
あるとき、ざざざざざ〜、と、とめどなく尿が大量に出てしまった。
 膀胱に入っていた尿が、いっぺんに全部あふれ出したのだ。

 自分の意思とは関係なく、
少しの腹圧で、ダムの決壊のごとく、
すべての尿がノンストップで出てしまう。
 結果、下着も服も、床までも、
すべてびっしょびしょである。

 これには、本当にびっくりした。
 自分では止められないのだ。
 噂には聞いていが、これほど尿失禁が派手なものだったとは。
 今までのお産で筋肉が緩んできていたのだろうが、
5人目出産で、一気に筋肉に傷がついてしまったらしい。
 何度も何度もザーザーといきなり失禁し、
もう外出が怖くてたまらなくなった。
 家の前で幼稚園バスを待つのでさえ、
何だか憂鬱になってきた。

 さらに、産後、4週間経ち、
眠気と疲れがピークになったとき、
かねてから子供にうつされていた風邪が悪化し、
3日連続、夜になると39度の熱がでた。
 節々が痛くて動けず、咳が止まらなくなり、
肺が鉄の串で刺されるように痛み出した。

 さすがにこれはヤバイと思い、
お産した病院に電話して、日曜の朝イチで診察してもらった。
 抗生物質と鎮痛解熱剤を処方してもらい、今に到るが、
とにかく、次から次へと、
精神的にも肉体的にも
尋常じゃない辛さが襲ってきた。

 いやあ・・・・・・
 
 39歳のチャレンジ。
 5回目のお産。
 半端じゃないっす。
 命がけは、これからでやんす。

 お産はゴールなどではなく、
単なる通過点に過ぎなかったのだ。

 しかし、やはり試練の極めつけは、
私の実の父、じじじそによる精神的攻撃だった。

 先日、アカンボを見るために
夫の父が金沢から我が家に来たとき、
私の書いたイラスト入り育児日記を見せると、
「リカさんは、こういうものが上手だから本にして出したらどう?」
と言われた。

 すると、その場にいたじじじそは、
「実は、あかじそドリンクという・・・・・・」
と、このサイトの存在を義父に知らせようとするではないか?!

 「わーわーわーわーわー!」
と叫んで踊って何とか阻止したが、
マジで、本当に危なかった。
 私のいないところで言われていたら、どうなっていたか?!

 義父は、パソコンをいじる人だし、
インターネットにもつないで、いろいろ検索もするので、
このサイトのことを教えてたりしたら、
サイト上で思いっきり義父母のことを言いたい放題言っている
嫁の私の立場はどうなるというのだ!!

 このサイトも、この結婚も、
一巻の終わりではないか?!

 あぶねえあぶねえ!!!!!
 あぶねえ〜〜〜〜〜〜!

 あまりにギョッとして、
ありもしない金玉が縮み上がってしまった。

 尿失禁の次は、性器脱に金玉縮みだよ!
 バカ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

 甘くねえ! 
 このチャレンジ、甘くネエゾ!

 つづく!
 つづく!
 まだまだまだまだ、
ま〜〜〜んだまだ、つづくのであった!

 キ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!



   (つづく)

 
(子だくさん)2005.12.5.あかじそ作