「 カリスマヤンキー 」 |
ヤクルトの宅配センターに勤めていたとき、 同僚に、玉ちゃんというヤンママがいた。 まだ二十歳そこそこだが、二人の子を持ち、 くりくりの目でコロコロとふくよかな、 朗らかな子だった。 「あ、あかじそさん、コーヒー飲みますか? 私、淹れますよ」 と、いつも絶妙のタイミングでお茶を淹れてくれた。 そんなある日、仕事終わりに、 センターのテーブルでみんなで集まって 今日の売り上げの集計をしていると、 その玉ちゃんと、やはりヤンママの同僚が タバコをふかしながら談笑していた。 「ねえ、パチンコ屋の敷地内に託児所作ったらよくねえ?」 「ああ、それいい! パチンコ中、ガキが邪魔でよ~」 「あちしさあ、一生懸命働いて、金貯めてさあ、 そういう託児所を作るのが夢なんだよね」 「ああ、それすっげえいい! やってやって!」 「よくパチンコ屋の駐車場にアカンボ放置して 死なせちゃう馬鹿野郎がいるじゃん。 ああいうの、絶対許せねえんだよな。 あちし、絶対、アカンボが居ても 安心してパチンコできる世界を作ってみせるよ!」 「すげえよ、玉ちゃん! すごすぎるよ~! 玉ちゃんは、みんなの誇りだよ! はっきし言って~!」 ヤンママふたりは、そう熱く語り合っていた。 ぽか~ん、としてそれを見ていた私に、玉ちゃんは、 「あかじそさんもそう思わないっすか?」 と、話を振ってきたので、私もあわてて、 「いいんじゃ~ん?」 と、答えたが、私は、基本的に 「アカンボがいるのにパチンコに興じるなよ」 と思う、非常に頭の固い人間なのであった。 また、違う日に、 今度は、発注作業でみんな忙しい中、 明らかに柄の悪いチンピラが、 肩で風を切りながら、センターの中に駆け込んできた。 ハッとするスタッフ一同を、 そのチンピラは、ほっそいメガネの上から三白眼で見回しながら、 こう言った。 「ネエサン、居るか?!」 「ネエサン、って、あんたのお姉さん?」 センターの長老おばさんが聞くと、 「ネエサンはネエサンだろうがあ~!」 と、みんなに向かってすごむではないか。 「ちょっと~、誰か~。この人のネエサンって誰~」 と、長老がセンターの奥に声を掛けると、 中から体格のいい玉ちゃんが、 アカンボを片手に抱きながらのしのしと現れて、 「おう、お前か? どうした~?!」 と、すごい眼光を光らせて言うではないか。 「あ、ネエサン、このババアたちが誰のネエサンだ、なんてほざきやがって」 と、言うや否や、ビッシ~! と、玉ちゃんのビンタが、 チンピラの頬に炸裂した。 「ババアたあ、何だ、馬鹿野郎! あちしの先輩がたに向かって、どういう口の利き方しやがるんだ! あやまれ! この馬鹿が!」 玉ちゃんの迫力にみな、あっけにとられながら、 「へえ、すんません」とへこへこ謝るチンピラに へっぴり腰で会釈するのがやっとだった。 「アネサンがた、あちしの舎弟がえらい失礼いたしやした。 ここは、あちしに免じて許してやってくれないでしょうかねえ」 頭を下げる玉ちゃんに、 一同、もっと深く頭をさげて、 「へへ~~~~~!」 と言うしかなかった。 「ありがとうございやす。 ところで、お前、何でここへ来た」 玉ちゃんは、そう言いながらセンターの外にチンピラを連れ出した。 「ふ~~~~~~~~~~」 一同、胸をなでおろしつつ、 目と目で、(玉ちゃん、すげえ~)と語り合っていた。 センターの中では、 若いのによくできた、頑張り屋の玉ちゃん、 という位置づけだった玉ちゃん。 しかし、実は、カリスマヤンキーであった。 偉そうに 「アカンボ連れてパチンコ行くなんてダメよ!」 なんて言っている私は、実は半端者で、 いつか、本当に託児所を全国展開し、 大女社長になっていくのは、 玉ちゃん、あんただ! パチンコ屋の駐車場の車の中で 脱水で死ぬアカンボをゼロにするのは、 あんたなんだ! ヤンママも、頭でっかちママも、 ノイローゼにならずに楽しく育児していける、 そんな世の中を作れるのは、 実は、あんただけかもしれないぞ! こういう玉ちゃんみたいな豪傑が、 きっと社会を引っ張っていくんだろうなあ~。 かっちょえ~~~! (了) |
(こんなヤツがいた!)2006.2.6.あかじそ作 |