「 わからん 」

 私は、学生時代、千葉に住んでいて、
高校生のときにディズニーランドができたこともあり、
遠足は、当然のようにディズニーランドだった。

 近いということもあり、
それ以来、友達としょっちゅう行っていたが、
結婚してからは、家族でコンスタントに毎年2回くらい行っている。

 しかし、子供の数がどんどん増えて、
しかも大きくなってくると、入場料も馬鹿にならない。
 だから、加入している生協のコーポレーションデイのチケットを買い、
割安で行けるときに行くようになった。

 去年の今頃、
生協のチラシで、コーポレーションデイチケットを売り出していたので、
いつも世話になっている実家の両親に
「じいとばあばも一緒に行かない?」
と聞くと、母は、瞬時に「行かない」と即答したが、
父は返事をしない。

 聞こえなかったのかと思い、もう一度父に
「一緒にディズニー行かない?」
と聞くと、
「そんなもん、誰が行くか!」
と、ものすごく感じ悪い返事が帰ってきた。

 せっかく誘っているのに何だよ、とムッとしつつも、もう一度、
「じいの大好きな『インディージョーンズ』もあるよ。
 大きな丸い岩が転がってきて面白いよ」
と誘ってみたが、父は余計に
「んなもん、馬鹿じゃねえか? 絶対行かねえ!」
と、怒鳴ってくる。

 そこまで言うかよ、と、むかむかしつつも、
いつものことなので頭を切りかえ、
そのときは違う話題に切り替えた。

 と、いうわけで、それから半月後、
家族でディズニーシーに行った。

 両親は、私たち夫婦の車の運転技術に、
非常に疑いをもっているので、
心配しているだろうと思い、
朝9時にディズニーに着いたとき、
実家に電話しておくことにした。

 「もしもし、ばあば?」
 「あ、お姉ちゃん、何よ、こんな朝っぱらから」
 「今ディズニー着いたから」
 「は?」
 「だから〜、今ディズニー着いたから」
 「・・・・・・うそ」
 「え、何で? 言ってなかったっけ?」
 「あ〜〜〜あ」
 「何よ〜?」
 「あんた〜、じいを置いて行っちゃって・・・・・・」
 「え? だって、行かないって言ってたじゃん」
 「馬鹿ねえ、お父さん、行く気満々だったのよ!」
 「えええええええええええ〜〜〜〜〜!」
 「インディジョーンズ楽しみだ、とか毎日言ってたわよ」
 「ええええ〜〜〜! 何で〜〜〜〜〜!」
 「あ〜〜あ、かわいそうに・・・・・・」
 「そんな〜! だって、馬鹿じゃねえか、とまで言ってたのに!」
 「それが『お父さん流』じゃないのよ〜!」
 「え〜〜! そんな流儀ヤダ〜〜〜ン!」
 「いい加減、その辺覚えなさいよ〜」
 「え〜、うっそ〜〜〜〜〜〜〜ん!」
 「あ〜あ」

 やっと夢の国に着いて、門に入るというときに、
いきなり激しい現実を突きつけられた私。

 電話で、何度も何度も悲鳴を上げる私に、
夫や子供たちが心配し、
「じいに何かあったの?!」
と食いついてくる。

 「何かもカニかもないよ〜。わっかんね〜よ!」

 もっとわからない彼らは、キョトンとしている。

 ああ、ゲートの向こうにミッキーが、ミニーが・・・・・・

 しかし、私は、また大きな声で叫んだ。

 「そんな微妙な「ジジイゴコロ」なんて、わから〜〜〜ん!」


       (了)


(あほや)2006.2.13.あかじそ作